<<約束の音色 8>>

それから一週間後。三人の守護聖がザンを発つ日。

見送りには国王のファミリーと大神官のみ。
彼ら一人一人と握手を交わし、シャトルに乗り込む。

「あーあ。ようやく自由になれたね」
座席に着くなり大きくのびをするオリヴィエ。
彼の隣の席にはやはり、いつもの化粧鞄が置かれている。
 一週間という短い滞在期間の間、彼らは次から次へと公務を果たしていったのだ。
疲れて当然である。
もちろん、あれからリュミエールは公園に行っていない。
フィリアにも会っていない。
「おまえはいつだって自由だろう」
オスカーがそう言って前の席から振り向いて愚痴ったが、
相手は一向に気にしている様子はない。
「さーて、今度は何色にしよっかな〜★ ねーえ、リュミエール」
後ろの席に座っているリュミエールに向かって、五本のマニキュアを差し出す。
「どの色がイイと思う? 金もイイし、青も捨てがたいし。ねぇ」
オリヴィエが座席越しに身体を伸ばしてリュミエールを見たとき、目の色が変わった。
「おっや〜? おやおや★ リュミちゃ〜んvv
 いいアクセサリー見つけたんだねぇ。ちょ〜っと見せてくれる?」
 リュミエールが差し出したそれは、ケープやスカーフを留めるブローチだ。
金の台座に大きな乳青色の、丸みのある石がついている。
石の中には、幾筋ものヒビのような線が入っている。
規則性のないその線は、見ようによってはまるで、
石の中に花が閉じこめられているようにとれる。
ブローチ自体は簡素な造りだが、オリヴィエには分かった。
「これってさ、この惑星でしか採れない鉱石じゃないの!
 さんざん探したんだけど見つからなかったのよねぇ。
 ねえ、リュミエールこれ譲ってよ!! ねえってば!!」
「いいえ、いけません」
大抵のことは二つ返事ぐらいで承諾するリュミエールが、
珍しく強い言葉を使って拒否した。
「なーによ、ケチ!」
唇を曲げて鼻を鳴らすオリヴィエに、リュミエールは言った。
「そんな顔をしていると、あなたの美しい顔に深〜いしわができてしまいますよ」
そして、額を弾くような手まねをしてみせる。
「えっえっ! それは絶ッ対ダメ! この私の顔に皺なんて宇宙の大損失だよ!
 あ〜、手遅れにならないうちにお手入れお手入れっと」
ブローチをさっさとリュミエールの手に戻し、席に着くなりパックの用意を始めた。
その様子を見てリュミエールは、くすくすと笑っている。
そんな二人に全く関心を持たないオスカーは、激務の疲れを癒すため、
アイマスクをかけて眠りにつくことにした。

やがて、シャトルのエンジンが点火した揺れが響き、ゆっくりと離陸していく。
リュミエールは窓から小さくなっていくザンの街を見ている。
午前の光を浴び、白いレンガ造りの建物の街はまぶしいほどだ。
その街の片隅で、はにかみながらぺろりと舌を出している少女の姿を思い浮かべる。

ウチね、宝石の加工を仕事にしているんだけど、
 この惑星でしか採れない貴重な宝石、一個もらっちゃった。
 このブローチ、わたしが初めて作ったの。大事にしてね

リュミエールの膝の上にはフィリアからの手紙が広げられていた。

もし悩んだり辛くなったりしたときは、わたしやこの惑星のこと思い出して。
 あなたがいつでも微笑んでいられるように、たとえどんなに時間が流れても、
 わたしはあなたのこと、忘れない。だから、約束

手紙を折り畳み、そっと隣の席に置いてある竪琴を引き寄せ、ポロンと指で弾く。
『ええ、約束します。私もこの音色と共に、あなたを忘れません』

それから静かに瞼を閉じ、昨日のオーケストラによる演奏と、
公園での二人のセッションとを順々に思い出し、
記憶の中の心地よいメロディに身をゆだね、リュミエールもまた、
穏やかな眠りに落ちていった。

「決〜めたッ。やっぱこのピンクにする。次の惑星は雪が降ってるって話だし。
 良く映えるよ、この色★ ねぇ、どう思う? リュミちゃんってば」
真っ白い顔で振り向いたとき、優しさを司る水の守護聖はすでに眠っていた。
柔らかな笑みをたたえながら。
「あーあ、寝ちゃったか。そういえば、この笑顔も美しい、よね」
満足そうに頷くと、オリヴィエはシートに深く座り直し、マニキュア塗りに没頭していった。

そしてシャトルは三人を乗せ、次の惑星へと進んでいった。

Fin


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