<<約束の音色 7>>

「そうそう。その笑顔。わたし、あなたのその笑顔、好きよ。
 ううん、笑顔だけじゃない。わたし、あなたが好きよ」
「‥‥え?」
 さらっと言ってのけたフィリアは、少し恥ずかしそうに頬を赤らめている。
「きっとその笑顔で、宇宙のみんなを癒しているんでしょうね。
 独り占めしたくなるけど・・・無理だもの」
驚いて惚けているリュミエールの手を取り、フィリアはポケットから、
小さな包みを取り出して握らせた。
「これ、わたしからのプレゼント。あなたとわたしが、出会えたことを記念して」
「ありがとうござ‥‥」

ふわっ。

最後まで感謝の言葉を述べらなかったのは、
フィリアがさっと身を伸ばし、リュミエールの左の頬に口づけたからだ。
ほんの一瞬、肌が触れ合ったかいないか分からないほどの一瞬だった。
何をされたのか理解するのに更に時間がかかったが、
その間にフィリアは縁から降り、くるりとリュミエールの方を向いて言った。
「ありがとう。あなたに会えたこと、わたし一生忘れない。
 だからあなたも、忘れないでね」
そして、彼女は走って行ってしまった。昨日と同じように。
慌ててリュミエールも立ち上がったが、
その時にはすでに彼女は市場の人混みの中に消えていってしまった。

 

そっと右手で、まだ感触の残る左頬に触れる。
「フィリア‥‥」
「キーッ。んもぅ、何やってんのよリュミエール!」

余韻に浸る間もなく、再び背後からあの二人が姿を現した。
二日連続、リュミエールはあまりの驚きに怯えた。
「オスカー、オリヴィエ。あなた方はどうしてここに!?」
「可愛いお嬢ちゃんとおまえの恋の行方だ。気にならないわけがないだろう」
「アタシもフィリアちゃんに挨拶したいなーっと思ったらさ、あんた何やってんのよ!」
オリヴィエは本気で怒っているようで、びしびしと指を振りながらリュミエールに迫る。
「なんで追いかけないのよ!」
「あ、あのー、それは‥‥」
「まあ、待て、極楽鳥。おまえのような愛の通し方とは違うんだ、リュミエールは」
「あーら、珍しくリュミエールの肩持つじゃないの、この自信過剰男!」
「どういう意味だ、色の博覧会野郎が」
「あ、あのー、お二人とも‥‥」
間に入って止めようとするリュミエールを無視して、二人は加熱してきた。
「な、なんなの、ケンカ売ってんの! 受けてたとうじゃない。
 最近体もナマってたから、いい相手になるわね」
「ハッ。おもしろい。俺と戦って生き残れるという自信があるのか?」
「二人ともやめてください!」

どがっ
「お、おわっ」 「うわっ」

加熱してきた二人をリュミエールが突き飛ばした。
しかし力余ったのか、二人とも情けない格好で地面に倒れてしまった。
「リュミちゃんたら、見かけによらず怪力なんだっけね‥‥」
「そういえば、俺も忘れていた」
たおやかな風体に合わず、
水の守護聖は力持ちとして、知っている者は知っているのだ。
「あ、すみません。でも、お二人が争う姿を私は見ていられず」
「あのね、リュミちゃん。お芝居だよ、これは」
立ち上がりながら、衣服に付いた埃を払い落として言った。
「まったくだ。俺たちが本気で争うとしたら、最高の女性を賭けてだろうな」
オスカーも乱れた髪を手でなでつけながら、困ったものだと付け加えた。
「でも、あのお嬢ちゃんは大胆だったな」
「そうねぇ。リュミエールにはああいう積極的なコの方がイイかもvv」
「それも見られていたのですか。あなた方というのは‥‥」
最後は絶句して声も出なかった。
「邪魔しなかっただけ大人だろう。
 俺はてっきり、おまえもキスのお礼ぐらいすると思ったが」
「や〜ねぇ、男はそれぐらいしとかないと、女の子の好意に申し訳ないじゃないの」
「とりあえず、宮殿に戻ろう。
 そろそろ大神官が、俺たちがいなくて騒ぎ立ててる頃だろうからな」
「何も言わずに抜け出してきたというのですか、オスカー?」
「フッ。人聞きが悪いな。一息つきに来た、と言ってくれ」
 尚更呆れ返り、それから部屋に戻るまでリュミエールは一言も言葉を発さなかった。


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