<<約束の音色 6>>

それから数時間後、リュミエールは昨日の公園にいた。
昨日と同じ格好ではなく、守護聖としての正装のまま。
目立つことは承知だが、これが自分の真の姿であることを
アピールするためでもあった。

優雅な衣に身を包む青年を前にして、フィリアは目を細めて頭から脚までじっと見た。
彼女もまた、王立楽団の制服を着ている。
ブラウスの襟に桃色の細いリボンを締め、
チェックのスカートと、キャメル色をしたブレザー。

市場は今日も人でごったがえしている。
惑星を上げたお祝いムードもたけなわといったようで、
誰も公園まで足を伸ばすことはない。
裏道を使ってここまで送ってきてもらったが、その人も車もすでに返した。
公園には二人きり。
今度こそオスカーもオリヴィエもいない。二人は残った雑務を果たしているはずだ。
「リュミちゃんの分まで引き受けたげる。あとは任せて。
 だ・か・ら、上手くやるんだよ★」
そう言ってウインクしながら手を振るオリヴィエ。
「聖地に帰ったら覚えておけ。ただ、この事は報告しないでおいてやる」
オスカーもまた、大神官との打ち合わせを前にリュミエールの肩を強く揺さぶった。
その痛みがまだ残る。

二人が何を言おうとしているのか大体察しはついていたが、
リュミエールはただ、彼女に最後の別れを言いに来ただけだ。

長く時間をとっては、お互い心残りになってしまう。
「フィリア」
口を開いたとき、フィリアの方からにっこりと白い歯を見せて笑いかけてきた。
「やっぱりね。わたし、分かってたんだ」
「‥‥え?」
一瞬の間をおいて、フィリアは昨日のように噴水の縁に腰を下ろすと、
胸のリボンをもてあそびながら告げた。
「だって、あなたのようにキレイな観光人なんて、見たことないもん」
ほんとだよ、と付け加えて。
「一ヶ月前から、楽団にもある程度情報をいただいていたの。
 真っ赤な髪で軍人気質の炎の守護聖様、
 美しい装飾品をいくつもつけて、ちょっと変わったスタイルしている夢の守護聖様、
 そして」
 リボンから手を離し、恭しく右手をリュミエールに差し伸べて。
「髪もまつげも眉毛も、すべて水色で物腰柔らかな水の守護聖様」
 そして、ふふっと笑った。
「最初声をかけられたときにすぐ、
 この方は水の守護聖様だわ、って分かったんだけどね。
 音楽好きだってことは聞いてなかったから、思わずお誘いしちゃったの」
そう言って、あっと小さく声を上げてから口に手をやった。
「し、失礼致しました。敬語も使わず、私ったら」
「いいえ、そのままで結構です。むしろ、普通に話して下さる方が嬉しい」
 ゆっくり首を横に振ると、リュミエールもまた昨日と同じ位置に座った。
「あなたは私の本当の姿を承知で、普通に接して下さった。
 その事が、本当に嬉しいのですよ」
 それから目を遠くに向ける。
「守護聖の任に就いてから、私は何かと人から敬われる立場になってしまいました。
 私自身何も変わったことはないのに。
 この身の中に水のサクリアを感じはしますが。
 ただ、私が水の守護聖であるということで、人々は私に頭を下げ、高めて下さる。
 その事が‥‥」
大きくため息をついた。
「時に心苦しく思うことがあるのです。
 でも、あなたのように私のことを守護聖としてではなく、
 一人の人間として接してくれたことが、私の心の安らぎとなったのです」
目をフィリアに向け、穏やかな微笑みを浮かべる。
「ありがとう。あなたに会えて、本当に良かった」
「そんな。わたしこそ、一生に一度会えるか分からない高貴な‥‥、
 守護聖様に会えて幸運だった」
 でもね、とフィリアは続ける。
「リュミエール、あなたはそんなに悩まなくていいと思うよ。
 だって、あなたは宇宙の人々全てにとって大切な人なんだから、
 敬われて当然だと思うし。もしそれが辛いようだったら‥‥」
「なんですか?」
言葉の続きを促すように、リュミエールが尋ねたが、
フィリアは首を横に振って話すのをやめてしまった。
「ううん。それに、そんなに深刻に考えてると、
 あなたに眉間に深〜いしわができちゃうんだからね。昨日みたいに」
と、額を弾くような仕草をしておどけてみせる。
リュミエールは一瞬ある守護聖の顔を思い出して、くすりと失笑してしまった。
「そうですね。なるべく悩まないようにいたしましょう」
「あなたにはいつも微笑んでいてほしいの。
 苦悩している水の守護聖なんて、様にならないわ」
「憶えておきます」
にこりと笑いかけて返事した。
優しさを司る水の守護聖の笑顔。
フィリアは目を細めてリュミエールの顔を見た。


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