「うーん、マズイね、それは」
珍しく深刻そうにオリヴィエが唸った。
「明日になったら正体が分かっちゃうなんて、まるでおとぎ話みたいだけどさ」
「でも、これは現実なのです」
目を伏せてリュミエールが呻く。
「私は、フィリアに嘘をついていることが辛い。
それをもし彼女に責められるようなことがあれば‥‥」
「立ち直れないかもねぇ」
と、オリヴィエが代弁してやる。
「あぁ。私はどうしたら良いのでしょう」
「リュミエール。おまえは何を恐れているんだ?」
それまでまったく発言しなかったオスカーが、
腕を組んで厳しい目つきで見下ろしている。
「恐れている、ですか?」
「そうだ」
悩み疲れた水の守護聖を、毅然とした炎の守護聖が睨み付けている。
「俺からすれば、おまえは些細なことに恐れている。
あのお嬢ちゃんに嫌われるのではないか、どうかということでな」
「オスカー。あんた、もうちょっとデリカシーってモンがないの?」
たまりかねたオリヴィエが口を挟んだが、それを無視するとオスカーは続けた。
「あのお嬢ちゃんを騙していることが辛いのなら、真実を明かすんだな。
おまえの真の姿を見せて、お嬢ちゃんにもう一度会うんだ」
リュミエールは声もなく聞いていた。
「まさかおまえは、フィリアに再び会わずにこの星を去ろうなんて考えているんだろう」
「オスカー‥‥」
「はっ。図星だな」
軽蔑するように鼻で笑った。
「そんなことをしたら、愛の炎も司る、このオスカーが許さない。
おまえはすでに、あのお嬢ちゃんの心を捕らえてしまったのだからな」
「心を、とらえた?」
意味が分からない、というように聞き返すリュミエールに、今度はオリヴィエが言った。
「恋をした女の子はね、光り輝くんだよ。内面から美しいものがにじみ出てね。
リュミエールの目にもそう見えたんじゃなぁい?」
「そ、それは、水滴が光に反射して‥‥」
ちっちっ、と指を振りながらオリヴィエが話す。
「あ〜の〜ね〜、そんな理屈じゃないのよ。
アタシにはわかるんだ、あのコがさ、リュミエールに恋しちゃったって」
「こ、恋ですか!?」
狼狽するリュミエールを、オリヴィエは楽しげに見下ろしている。
「ふっふーん。もしかして、本当に気づいてなかったの?
でも、リュミエールだってもう一度あのコと会いたいでしょ?」
「で、でもそれが恋とは言い切れませんが」
「問答無用! ねっ★」
リュミエールの頭上でオスカーにバトンタッチした。
「その通りだ。これはおまえ自身がけじめをつけなければならない問題だが、
一人の女性が関係していることは忘れるな」
「けじめ、ですか?」
「そう。祝典の後だったら、自分が水の守護聖であることはもう
秘密にしなくていいワケだし。もう一回、会ってみなよ」
「俺は、あのお嬢ちゃんの瞳に、美しい小粒の宝石を見た。
それは恋を知った少女だけが持つ輝き。
悔しいがあの光は、おまえに向けられているんだぜ」
「あーら、このスケベ男★ いつフィリアちゃんの瞳なんか見たのよ」
「フッ。極楽鳥、俺をなんだと思ってるんだ? 愛のプロだぜ」
「あ゛〜、耳が腐るぅぅ〜」
わざとらしく耳に手をやって騒ぐ。
それを冷たく睨み付けたていたオスカーだが、
変な顔をして騒ぎ立てるオリヴィエを見て、やがて彼も笑い出した。
くすっとリュミエールもつられる。
「ようやく笑ったわね、リュミエール」
ほっとしてオリヴィエがそっと、リュミエールの肩に手を置く。
「あんたさ、悩み過ぎだよ。同じ立場になったらアタシだって怖いと思う。
でも、それでも真実を知らせなきゃならないからネ」
がんばるんだよ★ と最後に励ました。
「ありがとうございます、オリヴィエ。あなたは優しいのですね」
「あらら、今頃気づいたの?」
心外ね、と続けた。
それからリュミエールはオスカーの方を見て、ありがとうと言った。
「あなたは本当に強いのですね。
改めて、守護聖が九人いる理由が分かったような気がします」
「フッ。俺とおまえは相反する力を司っているからな」
その後は何か言いたげだったが、言葉にはしなかった。
そしてリュミエールが立ち上がり、戻りましょうと促して三人は歩き出す。
市場はまだ人出が絶えない。
来た道を戻るのを辞め、大神官に迎えに来てもらうように手配することになった。
オスカーが電話を借りに商店に入っていった。
「ところでオリヴィエ、あなたも恋に詳しいのですね」
「突然、何よ」
心底びっくりした、というように胸に手をやった。
「先ほどのあなたの励まし、とても心に響きました。
それにオスカーが私を叱ってくれたことも」
そう言って、炎の守護聖の消えていった商店に目をやった。
「それもこれも、あなた方二人が私の知らないことを
よくご存じだからなのではないでしょうか」
「あのキザ男とは一緒にされたくないけどね」
そう言ってオリヴィエは、左手を腰に当て、右手で盛大に髪をかき上げる。
「アタシはね、みんなに美しい夢を与える守護聖だよ。恋愛も、美しいわよね★」
その言葉で、リュミエールは彼が恋愛に詳しい理由が分かった。
「‥‥恐れ入りました」
「うんうん。よろしい」
素直に頭を下げたリュミエールと肩をそびやかしたオリヴィエ。
オスカーが戻ってきたとき、この二人は何をしていたのだと思わない訳がなかった。
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