<<約束の音色 3>>

何を考えていたのかというと、迷っていたのだ。

『そういえば、彼女は始めから王立楽団の団員であると私に伝えていたはず。
なのに私は守護聖であることを隠していた。
もし明日、彼女の目の前に私が、守護聖として現れたとすれば、
ただの旅行者であると偽っていたことが明らかになってしまう‥‥』

フィリアがただの街娘ならば問題はないはずだった。
祝典の会場に入れる人数は限られている。
王族、高官、名ある人々。
一般市民は遙か遠く離れた場所からその様子を見ることができるか、
またはできないかなのに、彼女は楽団員である。

フィリアの言葉が文字通りだとすれば、
明日は自分たちの目の前に楽団が設置されるはずだ。
会場の見取り図などはまだ知らないため、その分も焦りを感じる。
少しでも距離があれば顔を隠せるかもしれないが。

『いえ、いけません。もし距離があったとしても、
彼女に姿を悟られることは避けられません』

もしもフィリアが、リュミエールが旅行者ではなく
水の守護聖であると知ったら、どう思うのだろう。

「フィリア、あの‥‥」
しゃべり続けていたフィリアの間を割って、急にリュミエールが声をかけた。
びっくりして見つめるフィリア。
「どうしたの? 何か思いだした、みたいな顔しているけど」
しかし、リュミエールから次の言葉は出てこなかった。
自分が水の守護聖であると伝えてしまえば、
それは宇宙の中でも秘しておかねばならない約束事を破ってしまうことになる。
守護聖の名にかけて、それだけはしてはいけないのだ。
「いいえ、なんでもありません。続けて下さい」
煮え切らない様子にただならぬものを感じたフィリアは、
目を伏せてうつむくリュミエールを心配そうにのぞき込んだ。
「大丈夫? 旅で疲れたのかしら?」
「そうかもしれませんね」
「それならもう帰った方がいいわ」
そう言ってフィリアは元気よく縁を飛び降り、リュミエールの目の前に立った。
「明日の祝典までには元気になってね。わたし、最高の演奏するから。
会場の外にも演奏は聞こえるはずよ」
「分かりました」
リュミエールも立ち上がり、フィリアの瞳を見下ろした。
太陽はもうすぐ地平線の向こうに隠れようとしている。
夕日を浴びて、彼女の栗色の瞳が一層鮮やかに輝いている。
「フィリア。もしかすると私たちは明日、もう一度会うかもしれませんね」
「ほんと? 嬉しい。それじゃ、また明日ここでね」
 そう言ってリュミエールの返事も聞かずに、手を振って駈けていってしまった。
『ここではない場所かも、しれませんよ』

取り残されたリュミエールは彼女の姿が街角に消えるまで見送ってから、
力が抜けたように再び座り込む。
大きくため息をつくと、突然背後から思い切り肩を叩かれた。
「!?」
びっくりして振り返ると、そこにはにやにや笑っているオスカーと
オリヴィエが立っていた。
リュミエールは気味の悪さを感じた。
「やだねぇ、リュミちゃんも。隅に置けない男だよ」
大袈裟な仕草で前髪をかき上げながら言った。七色のメッシュがさらさらと流れる。
「乙女の心をつかむのに、竪琴とは最高だな」
顎に手をやり、皮肉たっぷりにオスカーも言う。
「オスカー、オリヴィエ‥‥。ずっと見ていたのですか?」
「ああ。おまえが消えてしまったから、心配して探し回ったんだぞ」
「ほーんと。せっかくショッピングしようと思ってたのにさ、
リュミエールのせいで台無しだよ、まったく!」
「それは申し訳ありませんでした。ですが、いつから見ていたのですか?」
「いや、ついさっき来たばかりだが」
何かあったのか、とオスカーが尋ねた。オリヴィエもリュミエールの顔をのぞき込む。
「どうしたの、リュミちゃん。顔色悪いんじゃない?」
「少し、私の話を聞いていただきたいのですが‥‥」
 それからしばらく、フィリアとの一部始終を話した。


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