<<約束の音色 1>>

これは、オスカー、リュミエール、オリヴィエの三人がまだ、
守護聖に就任して間もない頃の話です


シャトルは滑るように滑走路に入った。
着陸を確認するとタラップ口を開けて搭乗員が、迎えの者に機内から挨拶する。
それを見届けてから、炎の守護聖オスカーが立ち上がった。

王立軍の軍服に身を包んで入るが、守護聖である。
精悍な顔立ちと鍛えられた肉体。
そのどちらも女性を魅了してやまない。
実際オスカー自身もそれを自負している。

「はいはい、分かってるって。ようやく狭い所から出られるなんて、嬉しいよねぇ」
ふざけたように返事をするのは、極彩色の髪を持つ夢の守護聖、オリヴィエ。
ひらひらとしたレースや光沢のある布地に身を包み、しごくご満悦の様子。
座席ではずっと爪を磨いていた。マニキュアもばっちり塗られている。
ラメの入った鮮やかなブルーだ。
美しさを司るだけあって、美への飽くなき追求が全身に現れている。
ふーふー、と息を吹きかけて乾かしながら手荷物を整理する。
その間にオスカーはもう一人の守護聖、優しさを司る水の守護聖、リュミエールの脇を通り抜けた。
ちらりと二人は視線を交わしたが、声はかけない。

別段仲が悪いわけではないが、良いわけでもない。
相反する力を司っているためか、なかなかお互いを理解しあえないでいるのだ。
その様子を肩をすくめてみていたオリヴィエがつぶいた。
「時間がかかりそうだねぇ、あの二人」
「何かおっしゃいましたか、オリヴィエ?」
耳ざとく聞こえていたリュミエールは、
素知らぬ顔でひらひらと手を振るオリヴィエを後目に、
オスカーの後をさっさと出て行ってしまった。

空港で出迎えた大神官も息を呑むほど、リュミエールも面立ちが美しい。
空気に溶け込みそうなほど薄い青。
彼を表現するにはその色が一番相応しい。
服装もそのカラーが際立つように選ばれているのか、ゆったりとした衣に身を包んでいる。
それらすべてが相まって、全体的にはかなげな印象を受ける。

空港の出迎えは極力簡素にして欲しいとの聖地の要請で、迎えに来ているのは大神官と伴の者だけだ。
「で、どーすんの、次はさ」
大はしゃぎでシャトルから下りてきたオリヴィエが、大神官に詰め寄る。
少々困惑しながらもまだ新しい大神官は、
自分のファイルからスケジュールを取り出してオスカーに差し出した。
「本日は、これから歓迎の祝典が開かれます。
三時間後には始まりますので、それまでに、今夜滞在される神殿のお部屋にご案内致します」
「ええーっっ?? ねぇねぇねぇ、なんだか強行軍じゃなぁい?」
説明を聞きながら三人で頭を突き合わせるようにしてスケジュールに見入っていたが、確かにハードだ。
空港から神殿まで一時間かかるらしい。
それから支度を整えて式典に出るのは、今までの旅の疲れもあって難しい。
「オスカー、よろしいですか?」
「なんだ、リュミエール」
顔を上げ、意見がありますと切り出した。
「このスケジュールを少し、伸ばしていただけないでしょうか」
「なっ、何を言い出すんだ。それは無理だ・・・」
「さぁぁんせーい♪ いーじゃないの、一日ぐらいさ」
オスカーが反論する間もなくリュミエールの意見に賛成するオリヴィエ。拍手までしている。
「だって、この一ヶ月ぐらいゆっくりできてないじゃん。観光とかさー。
 ショッピングとかしたいのに、時間ないし。 ここらで少し休憩しようよ。ねっ、ねっ??」
楽しげなオリヴィエとは対照的に、リュミエールは真面目だった。
「もちろん、今回の外遊の指揮をとられるのはあなたです、オスカー。
 決断はお任せします。ですが、あなたも少々お疲れなのではありませんか?」
切れ長なブルーの瞳にまっすぐに見つめられ、さずかのオスカーも答えに窮した。
大神官と守護聖二人を見比べ、顎に手をやり、頭の中で一人の人物を思い描く。
そして、その人物に助力を請いたいところだったが、答えなどもらえるわけはない。
「そ・れ・に。ここで体壊すのは女王陛下のご意志じゃないと思うんだけどね」
「女王、陛下・・・」
彼らがお仕えする唯一の存在。それを挙げられては反論はできない。
「ねえってば、ねえ、ねえ!!」
オリヴィエに詰め寄られていた姿勢を真っ直ぐに戻し、咳払いを一つしてからオスカーが口を開いた。
「確かにそうかもしれないな、オリヴィエ。いや、俺やおまえはともかく、リュミエールの顔色が悪い」
「えっ、私が・・・ですか?」
矛先が変えられたことに気づいたのだが、オスカーはいちいち構っていなかった。
極めて真面目な顔でオスカーは大神官に言った。
「すまないが祝典は明日の午前中にしてくれ。今日は休日にしたいんだ」
「ラッキー★」
オリヴィエがガッツポーズして飛び上がった。
「そっ、そんな突然に言われましても困りますよ」
完全に慌てた大神官だが、その隣でオリヴィエが声を上げた。
「良かったー。だってこの星ってさ、すっごい素敵な宝石が採れるんだもん★
 お土産にしたいじゃない」
大神官に詰め寄るオリヴィエ。その迫力に後退る第神官。
「申し訳ありません。ですが、私たちもこの惑星についてもっとよく知りたいと思いますし・・・」
リュミエールが必死で弁解していたが、大神官は今度はオスカーに詰め寄られていた。
つまり、オスカーとオリヴィエに挟まれるかたちで・・・。
「この近くで、美味い酒と可愛いお嬢ちゃんが集まるところはどこだ?」
「オスカー!!」
血の気が引いた顔で絶句するリュミエール。
「出たな、悪い病気!!」
びしっ、と音が聞こえそうなほどの勢いで、オスカーに指を突きつけるオリヴィエ。
「ハッ、何を言う。これは俺の正常な日常だぜ。
 そう言うおまえだって、能天気に買い物三昧なんだろう」
「ふっふーん♪ ルヴァにだって頼まれているものあるし。あー、た・の・し・み★」
すっかりノリノリの二人を見て、がっくりと肩を落とす大神官。
スケジュールを変更するしかないようだ。

こうして惑星滞在第一日目が始まる。

三人は今、女王に命じられた惑星の外遊を行っている。
各惑星が開く、守護聖への感謝を表す祭典に出席するのだが、
この外遊には、自分たちの力がどのように宇宙に作用しているのか、実際に確かめる目的もある。
就任して間もない彼等に命じられた任務だ。

ここは五つ目の惑星、ザン。
毎年、女王と守護聖への感謝を示す式典を開いているのだが、
千年に一度開かれる式典は節目として扱われ、毎年のものよりも盛大に行われる。
そして、守護聖自ら赴くことがある。

文化水準も高いザン。
青い空と緑の丘の続くこの惑星は、とくに人々の活気ある笑顔が特徴的だ。

石畳を挟んで立ち並ぶ大小の露天からは、威勢のいい売り子の声がする。
王都、ザーニアの市場は熱気に満ち溢れている。
「ねぇ、オスカー。あんた、真昼間から女の子目当てなの?」
目を忙しく動かしながらオリヴィエが、隣に声をかける。
「何か勘違いしてないか? 確かに、夜に咲く花も美しいが、
昼間の太陽の下、健康的に咲く花もまた、違う意味の美しさを持っているだろう?」
持論を説いたのだが、当のオリヴィエは聞いていなかったようで、
通り過ぎたはずの店に戻って布地をいくつも手に取っている。
目を輝かせて喜ぶオリヴィエの様子を、肩をすくめて見るオスカーだが、
後ろについてきているはずのリュミエールがいないことに、ふと気づいた。
「おい、リュミエール。どこへ行った!!」
いつからいなかったのか分からない。
首をめぐらせ、辺りを見たがどこにも姿はない。
目立たない服装に着替えたとはいえ、かなり目立つ容姿をしている。
・・・それは、あとの二人も同じことなのだが。
まして、あの髪の色だ。それに、いつも肌身離さず竪琴を持っている。
目立つ要素はいくつもあるというのに、見当たらないということは・・・。
「どうしたのよ、うろたえちゃって。らしくないよ」
ようやく店の主人と別れてきたオリヴィエも、オスカーの表情と状況を見て察した。
「ちょっと・・・マズイじゃん」
「もしかすると、先に神殿へ帰ったかもしれないな」
「それなら一言言うじゃない、リュミエールならさ。でも、もしかして・・・」
「迷子」
声をそろえていった言葉に対して、ありえないことではないと改めて思う。
昼間から市場はすごい混みようで、人にぶつからないで歩くことはできない。
子供の迷子はよく見たが、まさか大人が迷子なんて・・・。
「でっ、でもさ。守護聖が迷子なんて、シャレになんなんいよ」
「とにかく、急いで探すぞ。いいな?」
「オッケー。それじゃ、ワタシはあっちを探すから」
二人は来た道を引き返し、二手に分かれて探し始めた。


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