ラッキーバースデー


3月28日。今日はランディの誕生日だ。
アルカディアの空は今日も青い。
抜けるような春の青空と柔らかな風の下、ランディの誕生パーティが開かれる。

不可解な謎が残るアルカディア。

突然連れて来られた地から、果たして自分たちは帰れるのか。
死の空間と呼ばれる恐ろしい場に閉じ込められた、
そんな時だからこそ明るい話題は盛大に祝わなければと、
マルセルが率先してパーティを取り決めてくれた。

気候の穏やかなアルカディアでガーデンパーティを開くのだ。

緊急時とあって、守護聖も全員がそろわなかった。
本当に内輪だけの、ささやかなガーデンパーティ。
心のこもったこの時間を、ランディはとても喜んだ。
大勢に祝ってもらうことも嬉しいが、
何より祝ってくれるという気持ちが嬉しかった。

だから、ランディはずっとずーっと笑顔だった。

「ケッ。にやにやしやがって、薄気味悪ぃぜ」
その笑顔を見てゼフェルがぶつぶつとつぶやいている。
「いいじゃないか、ゼフェル。今日は俺の誕生日なんだ。
 嬉しいのは当たり前じゃないか」
「ったく、だりぃなー。なんで俺がおめえの誕生日なんか・・・」
「はーい、お待たせーっ」
ゼフェルのつぶやきを遮って、マルセルが大きなケーキを持って登場した。
「バースデーパーティを飾るのにふさわしい、おっきなケーキだよ!」
でんっ、とばかりに置かれたケーキは本当に大きかった。
真っ白い生クリームと真っ赤なイチゴだけでシンプルに飾られ、
チョコレートの板には『おめでとう、ランディ』と書かれている。
「うっわー。すっごいな、マルセル。これ、マルセルが作ったのか?」
目を輝かせて喜ぶランディの横でゼフェルの顔色が真っ青になった。
「・・・今度は甘いモンかよ・・・」
「あー、ゼフェル。誕生日にケーキは当然ではありませんか。
 ケーキのない誕生日なんて、まるでバースデーパーティではないですよー」
ゼフェルの苦しげなうめきを聞き逃さず、ルヴァがにっこりとたしなめる。
「ケーキはね、僕とティムカで作ったんだよ」
「はい。及ばずながら、僕もお手伝いさせていただきました」
と、マルセルの後ろからエプロン姿のティムカ。
妙にそのエプロンが似合っていたりする。
「そっか、ティムカは料理するって言ってたもんな」
「はい。でもお菓子作りは初めてだったので、ちょっと大変でしたけど。
 ランディ様のために心を込めて精一杯お作りしました」
「そうだよ、ランディ。僕たちの気持ちがいっぱいこめられてるからね」
「ああ、ありがとう、マルセル、ティムカ。二人の気持ち、おいしくいただくよ」
「・・・やってらんねぇー」
ますます青くなるゼフェルを後目に、
今度はリュミエールがバスケットを片手にやって来た。
「遅くなりましてすみません。
 今朝摘んだばかりのハーブをお持ちしたくて、ちょっと遅れてしまいました」
ティムカ同様、リュミエールのバスケット姿も似合っている。
「リュミエール様って、家庭菜園とかって上手そうですよね!」
白い歯を見せて爽やかに笑うランディに、リュミエールもくすっと微笑んだ。
「そう言われるとやってみたくなりますよ」
「あっ、それじゃ僕が今度野菜の種をお持ちしますね」
「ありがとう、マルセル。それではどこか広い庭を探しておきましょう」
「リュミエール、お待ちしていましたよ。
 お湯を沸かしておいたので、使ってくださいね」
ルヴァがティーポットをリュミエールに差し出した。
「では、朝積みの新鮮なハーブティーをおいれしましょう。
 アルカディアで育った自然の恵みが、あなたにたくさん注がれるように」
「ありがとうございます、リュミエール様。俺、たくさん飲みます!」
「だーかーらー。そーゆーこっちゃねぇーだろ・・・」
げんなりしているゼフェル。
「ったく・・・ なんでランディ野郎の誕生日なんかにオレが呼ばれるんだよ」
「あれぇ? ゼフェル、今なんて言ったの?? 僕聞こえなかったなぁー」
わざとらしく冷やかすマルセルに、ゼフェルはぷいっと顔を背けた。
「来たくなければ呼んだ時に断ってくれても良かったんだよ?」
「なっ、なんだよ。マルセルがしつこく誘ったから、仕方なく・・・その・・・」
「遅くなりましたーっっ」
また向こうのほうから声がした。今度はメルのようだ。
成長著しいメルの視線はちょうどゼフェルと同じぐらい。
「おい、あんましこっちに近づくな!」
「えっ? うーん、どういう意味なんだろう・・・。ま、いっか」
メルはゼフェルに避けられる意味が分かっていないようだが、
少し離れたところに立ってくれた。
「さぁ、皆さん。そろそろケーキを切ろうと思うのですがねー、
ちょっと細工があるんですよ」
「細工??」
「ええ。アルカディアに伝わるお誕生日ケーキのしきたりなのですがね。
 黄金に輝く指輪をケーキの生地に練りこんで焼くんです。
 そして、切り分けた部分に指輪が入っていた人には、
 その後一年の幸運と加護があるという、素敵なお話しなんです」
「ええーっ。
 ルヴァ様いつの間にケーキの生地に指輪なんて入れてたんですか?」
「あーっはっはっは。それは、ひ・み・つですよー」
人差し指を口にあてて、愉快そうなに笑うルヴァ。
「素敵なしきたりですね、ルヴァ様」
「ええ。本当に、とってもロマンチックです」
「メルもそう思う! よーし、指輪を狙うぞ!」
「おいおい、待てよおまえら」
わくわくして目が輝いていたマルセルたちを
ゼフェルの冷たい一言が静めさせた。
「今日の主役は誰なんだよ?
 そいつが一番に幸せになんなきゃ意味ないじゃねーか」
「・・・あ。そうだよね、確かに」
「でも、もうケーキの中の指輪は見えないし。
 切ってしまわないと指輪のありかは分からないし」
「つまり、必ずしもランディ様に指輪が当たるわけではないですよね・・・」
「外から見えるように出来なかったのかい?」
「・・・それじゃしきたりの楽しさがなくなってしまいますよー、ランディ」
「そうだけどよ、ルヴァ。
でも、一番祝ってやらなきゃないんねぇヤツに指輪の幸福が来なかったら、
それこそお笑い種じゃねーか」
顔を赤くして怒鳴るゼフェルにメルがどきりと身を竦ませる。
「おいおい、待てよゼフェル」
「あんだよ! オレはおめえのために言ってやってんだぜ」
「分かるよ、でも」
「でももへったくれもねえよ!
 大体、こーゆーインチキくさいことする方がおかしいぜ」
「やめるんだ、ゼフェル。おまえの気持ちはよく分かったよ」
ランディは真っ直ぐにゼフェルを見た。
ゼフェルは気まずくなって視線を外してしまったが、ランディは続けた。
「俺の誕生日だから、俺のこと大切に思ってくれてること、すっごく分かった。
 おまえって本当にいいヤツだよな、ゼフェル」
「・・・なんだよ、いきなり」
「でもさ。俺、幸せになるのは誰でもいいって思うんだ。
 その人の幸せが他の人にも移っていく気がしてさ。
 もしも、ゼフェルがその幸運の指輪を掴んだなら、
 俺にもその幸せを分けてくれよ。
 俺はそれだけで十分満足してるんだ。
 それに、こんなにおもしろい企画を教えてくれたルヴァ様にも感謝しなくちゃな」
くるりと反転させランディは、包丁を構えてたたずむルヴァに一礼した。
「ありがとうございます、ルヴァ様」
「それでは、誰が幸運の指輪をとっても、あなたに異存はありませんか?」
「はい、ないです!」
きっぱりと、小気味よいランディの返事を合図に、
ルヴァはケーキを切り分け始めた。

「・・・で、結果はこれかよ!」
あまりの不器用な切り方に、ゼフェルが怒鳴り散らした。
「どーやったらこんな風に大きさが不ぞろいに切れるんだ!?」
「えーっと、偶然です。まったく狙ってません」
「少しは狙えよ! 均等に斬るぐらいはできんだろうが」
「でもゼフェル。形が不ぞろいなほうがもしろいと私は思いますよ。
 さあ、みんなでケーキを選びましょうねー」

それぞれが不ぞろいのケーキを一切れずつ小皿に取る。
誰の切り口を見ても指輪は見えない。
ちらっと見ただけでは分からないようだ。
「おい、ルヴァよぉ。本当にあの指輪入れたのか?」
「もちろんですよ。あなたの自信作ですからねー」
「ええっ、指輪はゼフェルの手作りなのか!?」
あからさまに驚いて、ランディは自分の小皿を取り落しそうになった。
「ったりめーよ。器用さを司る俺様にかかれば、どんな細工物だってちょろいさ」
「俺、おまえのそういうトコロがすっごくうらやましいんだぜ。
 これからも仲良くしような、ゼフェル」
そういって肩に手を回そうとしたが、
気色悪がられてゼフェルは向こうに行ってしまう。

「それじゃ、いちにのさんでケーキを崩してみてくださいね。
 指輪があった人は正直に申し出てください。
 それでは、いち、にの、さん!!」
ルヴァの合図と共に、それぞれがケーキを崩し始めた。
一口、二口、三口。食べ進んでいくが誰のケーキにも指輪はないようだ。
「あっ、食べ終わりました・・・」 「メルもです」
ティムカとメルが寂しげに申告する。続いてマルセルも。
「やっぱり細身の一切れよりも大きめな方が確率が高いのかな?」
「どうやら私のだめでしたねー」
「私もです。お口直しにもう一杯ハーブティーはいかがですか?」
「いいですねー。ぜひいただきましょう」
最後に残ったのはゼフェルとランディ。
そして、二人が同時に最後の一切れをほおばった瞬間。

がりっ

と誰の耳にも届く、石を砕いたような音が聞こえた。
同時にランディの顔が変な風にゆがむ。
「大丈夫、ランディ?」
心配そうに顔を覗き込むマルセル。
ランディはハーブティーを喉に流し込みながら、
口の中に残った異物を手に吐き出してみる。
それは、とってもシンプルで装飾の少ない、細身の指輪だった。
「なーんだよ。結局おめえに渡るようになってたんじゃねーのか」
「違いますよゼフェル。
今日はランディの誕生日ですからね、特別にツいてたんですよ」
「・・・仕組みはねぇよな?」
「ありません」
きっぱり応えたルヴァは視線を交わそうとしてくれなかった。
おもいっきり怪しいが、まあ、今日はランディの誕生日。
やはり、幸運は主賓が受けなければならない。
マルセルたち三人に囲まれ、指輪を手にランディはあははっと笑った。
爽やかな青年の笑顔が青空を照り返して眩しく見える。
風になびく髪がサラサラと、青年の人の良さを振りまいている。
青年の腰にかけられた剣は、常に女王と共にあるという信念の証。
ランディはこれからもそのすべての力とサクリアをもって、
女王と宇宙のために仕えていくだろう。

誕生日にランディはより一層それを誓った。
すでに外界では過去になってしまった、家族のためにも。

今は家族のかわりに、こうして祝ってくれる仲間がいる。
なんて嬉しいことなんだろう。
なんて素晴らしいことなんだろう。
この仲間たちなら、なんだったできる。

そう信じて疑わないランディに、ルヴァが声をかけた。
「では、その指輪を受け取った幸運なる青年に、
これからの願いを語ってもらいましょうね」
「えっ、声に出すんですか? 恥ずかしいですけど」
「すべては声に出すことから始まると言いますからねー。
 あなたの願いも声にした方がかなうでしょう」
「・・・はい。分かりました。それじゃ」

ランディはみんなの輪から一歩前に進み出、
暖かな午後の日差しをくれる太陽に向かって目を閉じた。
そして、先ほどのゼフェルの作ってくれた指輪を両手で握り締める。

「どうか、女王陛下の加護のもと宇宙全体が幸せでありますように。
 俺が、少しでも長く女王陛下の翼を守る一員であり続けられますように。
 くじけそうな心を持つ人に、俺の送るサクリアが強く届きますように。
 俺の勇気がたくさんの人に伝わりますように。
 それから・・・ ずっと、仲間がそばにいてくれますように」

そして目を開け、振り返るとみんながランディを優しく見つめていた。
「立派な願いですよ、感銘を受けました」
「ええ、本当に。あなたの心の成長がとても嬉しいですよ」
「僕たちもランディと同じように、女王陛下をお守りし続けたい」
「僕もです。微力ながら僕にできることすべてで、宇宙のお役に立ちたい」
「メルもだよ。メルに何ができるか分からないけど・・・でもね。
 ずっと、ランディ様の友達だからね」
「みんな・・・ ありがとう!!」
ランディの中に熱いものがこみ上げてきた。
「おいおい、オレのこと忘れてねーか?」
「あっ、いや。忘れてないよ、ゼフェル」
「ったく。おまえの願いってなんだかおまえらしくて・・・気に入ったぜ。
 何よりからかい甲斐があってな!」
「なっ、なんだよ、ゼフェル。そんな言い方はひどいぞ!」
「へっ。本当のことだ。否定できないだろ」
「まあまあ、じゃれるのもそこらへんにして・・・」
「じゃれてねぇよっ!」
「これはスキンシップです、ルヴァ様」
「うるせぇっ!」
「あはは、一々ツッコミ入れてるなんて。忙しいんだね、ゼフェル様って」
「メルもほっとけっ!」
「あははっ、まぁいいや。何にせよ、俺とおまえは年も近いし。
 これからも仲良くやっていこうぜ、ゼフェル」
そう言って、爽やかに握手を求める手を差し出した
「・・・お、おう」
ゼフェルもその手を握り締める。

永遠のライバル、おっかけっこ同士。
いつかは滅びるかもしれないこの空間で誓ったこの絆は永遠。
二人の絆はとても強く、とてもかたい。


ANGEL GARDENの由美様にさしあげた、ランディ様のお誕生日創作です。

なんだかものすっごくランディ様の話が書きたくて。
三月の暖かな風とアルカディアの風景がとっても気になって。
それで、急遽書き始めたお話なのですが。
快く由美様にも受け取ってもらえて嬉しいです。ありがとう!

緊急事態だからこそ楽しく。そんな思いを込めました。
ケーキに指輪の話は、外国でよく耳にする話ですよね。

ランディ様、お誕生日おめでとう!!