
思い出4

そう。今は女王試験の真っ最中なのだ。
ルヴァにとっては三回目の、ゼフェルにとっては二回目の女王試験。
守護聖は二人の候補生に力を貸し、
そしてどちらかを女王として決める役割も担っている。
女王試験という言葉に、ゼフェルがぴくりと反応した。瞳が揺れた。
ルヴァは内心、手応えを感じた。
「だから、今はその質問には答えられません。申し訳ないですねー、ゼフェル」
「そんな、謝るこたねェけどよ」
腕の上に載せた顎を離し、下ろしていた足を椅子に立てて、膝を腕で抱えた。
「それでは、ゼフェルはどうですかー? 守護聖になって、あなたはどう思います?」
あえて、良かったかとは尋ねなかった。
そう問いかければ、良くないと言われるのに決まっている。
だから、どう思うのか尋ねたのだ。
「オレか? オレはな‥‥」
ゼフェルは珍しく、即答を避けた。
直情的な彼が一度思案するのはきっと、
ゼフェルの真の気持ちを言おうとしているからだろう。
彼との数年のつき合いで、ルヴァはゼフェルの少しずつの
微妙な変化も気づいてやれるようになった。
もっとも、それはつい最近のことなのだが。
乱暴者で粗野だと思われがちだが、ゼフェルは誰よりも繊細で
、細やかな気遣いの示せる子だ。それに、勘もいい。
大人たちがどんな思惑を持っているかなど、すぐに見抜かれてしまう。
だからこそルヴァは、ジュリアスに手ぬるいと言われようが、
ゆっくりとゼフェルを見ていくつもりである。
「オレも、退屈はしてねェぜ。それに・・・昔ほど、守護聖がイヤだとは思わなくなった」
「そうですかー、それは良かった」
「か、勘違いすんなよ! オレは、別に、ここがいいって言ってんじゃねェぞ」
「ええ、ええ、分かってますよー」
ほんとに分かってんのか? と、ぼやきながら、ゼフェルは続ける。
「オレ、始めは女王試験なんて、かったるくてやってらんねェと思ってた。
だけどよ、先にやった方の試験で、オレ、ちょっと考え方変わったみてェなんだ。
なんつーか、その‥‥」
ゼフェルは頬を人差し指で掻いた。
「オレの鋼のサクリアで実際に、大陸が発展してんの見てたら・・・。
オレ、なんかスゲーことしてんなって思ってよ」
「そうですねー、私もそれは感じますよ」
ゼフェルの後を継いで、ルヴァも口を開いた。
「私の地の力も、大陸に確実に影響を与えている。
そしてそれが、彼女たちの試験へと結びつく。宇宙を担う、将来の女王。
それを決める試験に立ち会っているのですから、手抜きなんかできませんものねー」
「ンなこと考えねェよ! それとも、オレがサボるとでも思ってんのか!」
「あ、いえ、言葉のあやですよー。
では、ゼフェルは守護聖になって良かったと、今では思っていますか?」
ゼフェルはやはり、成長していた。自分が思った以上に、大人になっていた。
だから先ほどは避けた質問を、今度は直接ぶつけた。
するとゼフェルは手を頭の後ろで組んで、視線をルヴァから逸らした。
「分かんねーな。正直、オレはまだ守護聖になって良かったとは思えねぇ。
でも、今の生活は嫌いじゃない。あー、ッたく、なんて言ったらいいんだよ!」
癇癪を起こすように思えたので、ルヴァはあわてて制した。
「ああ。大丈夫ですよ、ゼフェル。私には分かりますよ」
「嘘つくな。分かるわけねーだろ!」
「いいえっ、分かりますっ!」
投げやりな答えのゼフェルに、ルヴァは珍しく大きな声を出した。
驚いたのか、ゼフェルの口が止まる。
「分かりますよ、ゼフェル。
確かに、聖地は暮らしやすいし、ここでしか得ることのできない、
かけがえのない仲間や友人と出会えて、私は満足しています。しかし・・・」
熱っぽく語るルヴァの表情が曇った。
「もしも、自分が守護聖でなかったのなら、と、今まで幾度も考えてきました」
「おめーでも、そんなこと考えるのかよ?」
ゼフェルが身を乗り出してくる。
「それは、まあ、ね。でも、その度に答えが見つかりません」
ルヴァは、深く背もたれに身を預けた。目が天井を見つめる。
「いろいろな『もしも』が出てくるのですが、どれもこれも、
過去に戻って未来をやり直すとしたら、あり得るんですよ。
でもね、一番現実的なのは、今ここに自分がいることですから。
色々考えても、結論は出ないんですよ。
それでやはり、自分はここに来るべき人間だったのだなーと、
なぜか納得させてしまうんです」
「納得、させるだと?」
「ええ。そうするとね、ゼフェル。
自然とこの聖地での生活が一番自分に合うような、そんな気になってくるんですよ」
「それって、自分のこと騙してんじゃねェのか?」
「いいえ。違いますよ」
ゆっくりと頭を振り、上体を起こしてゼフェルを見た。
ゼフェルは、自分からの次の言葉を待っているようだ。
期待しているように、じっとこちらを見ている。
「騙しているのではなく、心からそう思える時が、来るんですよ」
ルヴァはそれだけ答えて、後は何もしゃべらなかった。
ゼフェルが、自分で考えるだろうと思って。

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