
思い出1

うららかな陽光の差す窓辺。穏やかな天気。
「あー。今日も聖地は平和ですねー」
外を眺めつつ素直な思いを、誰にともなく口にした。部屋には彼一人しかいないのだが。
「地」の守護聖、ルヴァ。
前女王の時から守護聖を務めている彼は、「年長組」と呼ばれる一人である。
知恵を与える【サクリア】を司るだけあり、
彼の部屋は図書館のように、本棚に囲まれている。
彼の私邸もそうだが、執務室も同じだ。
今朝も数冊の本を開き、女王補佐官から依頼された内容を調べている。
そういうことは王立研究院でするのだが、ルヴァがやらせてほしいと名乗り出たのだ。
手にした本を机に置き、椅子から立ち上がると窓際に立って、大きくのびを一つする。
そして、とんとんと右手で左肩を数回叩いた。
「おや? マルセル達ですねー」
窓の向こうで元気に駆け回るのは、緑の守護聖マルセルと、風の守護聖ランディだ。
明るく元気な笑い声が、ガラス越しに耳に届く。二人ともとても仲が良い。
面倒見の良いランディが、何かとマルセルの世話を良くみてやっている。
一番年少のマルセルだって、立派に守護聖として務めを果たしている。
「おい、待ってくれよマルセル。そんなに走らなくてもいいんじゃないのか?」
「だーめ。だって、摘んだばっかりの花が元気なうちに、届けてあげたいんだ」
マルセルの腕の中には、一抱えもあるマーガレットが束になっている。
「そっか。分かったよ。急ごうぜ」
「ありがとう、ランディ」
二人の走っていく先には、女王候補が住む寮がある。どちらかに渡すのだろうか。
ちょっとした興味が湧いたが、今は追求することはやめた。
二人の様子を微笑みながら見つめる。
「聖地に来たばかりの頃は心配でしたけど、今は大丈夫そうですね」
聖地には、同じ運命を共にする仲間たちがいる。
外界では決して得られない、かけがえのない仲間だ。
「守護聖でなかったら、彼らに会うこともなかったのでしょうね」
小鳥のチュピが先導するように飛ぶ後を、
こぼれるような笑みを浮かべて追いかける、マルセルとランディ。
そうして二人は部屋の前から去って行ってしまった。
はぁ、とため息をつくと、彼は再び椅子に座り直した。
再び本を手にしたが、関心が別の所に移ってしまったので、
そのまま開かずに戻してしまう。
『私が守護聖にならなかったのなら‥‥』
これまで、幾度となく考えていたことだ。その度に結論は出ない。
『あのまま故郷の惑星にとどまっていられたのなら‥‥』
静かに目を閉じ、聞こえるはずもない、故郷を流れる砂の音に耳を澄ませてみた。
思考の中で、ルヴァの目は宇宙に浮かぶ故郷の惑星を写していた。
ルヴァの故郷は、星のほとんどが砂で覆われている、砂漠の惑星。
季節の変化もなく、ただただ広く連なる砂丘。
吹く風に舞い上がる砂嵐。
朝と夕の温度変化の差が激しく、不用意に夜間に町を出るようなことがあれば、
命の危険さえも伴う。
『あの頃は自分がこんなに恵まれた場所で生活するなんて、思いもしませんでした』
彼の思いの目は、ぐるりと囲む塀から街中へと進んでいった。
広場を囲み、土を固めて作った家々。
時折訪れる隊商が見せてくれる、よその街や星の珍しい品物の数々。
そのすべてに、少年時代のルヴァは目を輝かせていたものだ。
広場から延びる道を抜け、二度ほど路地を曲がる。
そこには、今でもはっきりと思い出せる、彼の生家がある。
『玄関には、ベンチがありましたねー』
そこにはいつでも父親の友人達が座っていて、
みんなで自分たちの知識を交換していた。
『そうそう。玄関の手前には、それはそれは大きな立派な木があった』
大きく広げた枝葉が、昼間の強い日射しから守ってくれたものだ。
思考の目はさらに進み、家の中へ入る。そして真っ直ぐに、ある部屋へ向かう。
そこは、彼の幼い弟の部屋。戸には可愛らしい船の絵が掛けられている。
きしむ木戸を押し開けると、中からまばゆいばかりの光が溢れてくる。
目が慣れると、そこには自分をじっと見上げる弟がいた。

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