「ねて、見てユージィン。きれいな花冠でしょ? みんなが編んでくれたのよ」
傍らではしゃぐ女性、アメリア。彼女は私の婚約者。かわいらしい、私の花嫁。
私はにっこりと微笑み、彼女が差し出す花冠を受け取る。
「とても素敵ですね。君にとても似合いますよ。それに・・・ああ、なんていい香りなんでしょうね」
アメリアの笑顔と花冠とは同じくらいかわいらしい。
両手で冠をやさしく包むと、そっと彼女の頭に載せてやる。
するとアメリアは私の胸に飛び込んできた。
背中に腕を回し、私をぎゅっと抱き締め、胸に顔をうずめながらささやいた。
「ユージィン、大好きよ。ずっと、ずっと離れないわ」
「・・・愛しています、アメリア」
静かに微笑みながら彼女を受け止め、両手で強く抱きしめた。
私たちはまもなく結婚式を迎える。人生で一番喜ばしい時を迎えるはず。
・・・でも、私の心はそんなものを欲していなかった。
私の心はいつも殻に包まれていた。その殻は厚い。
ここで生きていくために、これまでの人生でずっと殻を厚くしてきてしまったから。
「いい人」という仮面を被り、偽善者を装ってきた。嘘の上塗りを繰り返して。
優しく親切で、愛情深い「ユージィン」。
だが、本当の私はこんな人間ではない。
本当は誰のことも愛せない。愛するという感情が分からない。それが私のはず。
何よりも欲しいものは、本当の自分。本当の自分を見つけてくれる存在。
私は本当は・・・心に欠陥を抱えた、不完全な人間なのに。
回りの期待が殻を厚くしてきてしまった。今の生活を崩さぬために。
偽りの笑顔と嘘だらけの言葉で。
今、この腕の中に抱いている女性と結婚すれば、一生涯、この殻を破ることはできないだろう。
生きるために生まれてきたのに、一度も殻を破らず、その中で朽ち果てるひな鳥のように。
私には、殻を破る勇気がないのだろうか。
そんなに、この生活に愛着を感じているのだろうか。
ずっとこんな問いかけを繰り返し、自分の曖昧な気持ちに責められていた。
アメリアと別れ、自分の部屋に戻ると、どっと汗が吹き出る。
鼓動が激しくなり、息切れがする。体中の血管が音を立てて脈打つのが分かる。
目がかすみ、唾を飲む音が頭に響く。大きく深呼吸をして、動悸を鎮める。
今の私の顔は苦痛に歪み、まるで化け物か何かのようなひどい形相をしていることだろう。
最近はいつもそうだ。疲労で体がおかしくなってきている。
仮面を被っていることに疲れたからだ。本当の自分に逆らい、演じていることに。
もう・・・限界なのかもしれない。
汗を手の甲で拭ったその時、私はふと、窓の外にあの気配を感じた。
慌てて窓に駆け寄ると、向こうの湖にあの方が「いる」ことが分かった。
そこまではかなりの距離があるが、私には分かる。あの方が私を「見ている」ことを。
あの方こそが、私の救い・・・。あの方こそが、私の欠けた魂を埋めて下さる・・・。
あの方が初めてこの地にこられた時のことをよく憶えている。
まるで、運命の糸に導かれたように。いや、魂が引き寄せられるかのように。
私の、苦しみ、うめく魂があの方を呼び求めていた。それに、あの方が応えてくださった。
初めて近くであの方を見た時に、あの瞳の魔力に、捕らわれてしまった。
私はあの方から最も神に近い神々しさを感じた。
ひれ伏さずにはいられない、畏怖を起こさせる存在感。
ずっとずっと待ちこがれていた存在。それが、あの方。
あの方に引き寄せられた私の不完全な魂は、すっかり魅入られてしまった。
闇の光に。あの方の持つ、心の力に。
全身の毛が総毛立ち、稲妻に打たれたように全身に走る衝撃。
救いを求める魂が歓喜し、私は走り出したい衝動に駆られる。
あの湖へ、あの方に向かって。
あの方は私の殻を破ってくださる一筋の光。
殻に穿たれた、たった一つの、細い細い穴。そこから私に向かって差し込む光の色は・・・闇。
輝きに満ち、暖かさを感じる金色の光ではなく、冷たく暗い、深い闇色。
どんな色も打ち消す、闇だけがあの方から感じた。
でも、私にはその闇がただ一つの安らぎだった。
それまで感じた光のどれよりも、美しく輝いていた。
私の魂はその闇を求めていた。
私は自分の中の闇をさらけ出すために、もっと強い力を欲していた。
例えあの方に従う道が人として外れていたとしても、
あの方が私のすべて、あの方が、私を救ってくださると信じていた。
あとはもう、どうでもいい。どうでもいいのだ。
言葉ではなく、魂が感じたこの思いに私は、正直戸惑っていた。
あの方は私を召してくださった。その召しに応じれば、私は私でいられる。
こんな苦しい生活はもうたくさんだ。偽善に満ちたこの平凡な生活から抜け出せる。
だが、そううまく心は割り切れなかった。
アメリアをかわいらしいと思う心は本物だ。今まで世話になったこの家に恩義も感じる。
なかなか評判も高いこの家を継ぐというのは、私にとっても魅力的だったから。
しかし、今は完全に心が決まった。
本当の私の心と偽りの私の心がせめぎ合い、体がその負担にこれ以上耐えることができない。
・・・これ以上、偽りを重ねられない。
気づけばすでにあの方の気配はなくなっていた。
窓から離れ、再びベッドに座り、顔を手で覆う。
しばらくそうしていたが、私はまるで仮面を剥ぐように手を動かし、
手が顔から離れた時には、私の中に「いい人」はいなくなっていた。
偽りを重ねた私の心は排除された。
仮面は捨てた。
体が歓喜で震えている。がくがくと動く自分の体を抱きながら、私は感じていた。
今までと違う自分を、心が喜んで受け入れていることを。
新たな私を、私自身が諸手を挙げて歓迎していることを。
今まで着けていた作り物の笑顔ではなく、私の顔は自然にほころんでいる。
これからの人生を考えると愉快になる。笑い出したくなる。
あの方の召しに応じよう。そして、あの方に私のすべてをお捧げするのだ。
あの方にこの魂を救われたのだから、あの方に命もすべてお捧げするのは当然。
私には分かる。あの方は再び明日、ここに来る。
その時、私はあの方の元に行こう。
すべてを断ち切って。
今までの自分などいらない。
謎のお方・・・。我が魂の半身・・・。
私を導いて下さる、闇色の道標。
闇よりも深く輝く、あの方の元に私のいる場所を見つけたのだから。
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