欲しいものは 

「・・・なんだ?」

アリオスは、突然アンジェリークが差し出した小箱を見て、ぽつりと言った。
その小箱はきれいに包装されていて、ブルーのリボンまでかけられている。
どう見たってプレゼントにしか見えないのだが、わざとアリオスはとぼけた。
「はいっ、これ。プレゼントよ!」
アンジェリークは負けじと、大きな声で言った。
「今日はあなたの誕生日でしょ?」
「誕生日だと? ああ、そういやぁそうだったな」
前髪を掻き上げながらアリオスは、感心はないとでも言いたげに、
アンジェリークから目を反らした。
「なっ、なによ、アリオス。なんで受け取ってくれないの!!」
ぷっと頬を膨らませてアンジエリークが食ってかかる。
「受け取らないとは言ってねえだろう」
そう答えつつも、アリオスはくるりとアンジェリークに背を向けてしまった。
「アリオスッッ!!」
「ただ・・・ おまえから物をもらうと俺がつらくなる・・・」
アリオスは低く呟いた。
その呟きがアンジェリークの耳に届かないことを願いながら。
「それじゃ、受け取ってくれるのね!!」
「はいはい、分かりましたよ。ありがたくいただくぜ」
アリオスはアンジェリークの手から小箱を受け取った。
それは、とても軽かった。軽く振ってみると、カタコトと音がする。
「うふふ、開けてみて」
「・・・今、ここでか?」
「そうよ。アリオスが開けてみるところを見たいの」
わくわくしながら瞳を輝かせ、アンジェリークが見つめる。
「チッ。こういうのは一人で開けて楽しむんじゃねえのか?」
「でもぉ、私も見たいんだもん」
「はいはい、分かったから。また膨れるなよ。開けてやっから」
アンジェリークに振り回されっぱなしのアリオス。
アリオスは、じっと小箱を見つめながら呟いた。
「プレゼントなんて、ここしばらくもらっちゃいねえからな」
「えっ? それじゃ、去年の誕生日はどうしたの?」

去年の誕生日。それは、戦いのさなかだったはずだ。
自分の一番信頼する部下達と、決起に向けて動いていた頃・・・だったと思う。
誕生日どころではなかったはずだ。
側近の数名が祝いの言葉をかけてくれたような気がするが、もう忘れた。
自分の誕生日など初めから関心のないアリオスにとって、
祝うことにさえ疑問があるからだ。

・・・いや、一度だけ心から喜んだときがあったはずだ。

「去年の誕生日は祝わなかったが、昔、一人だけ、祝ってくれたやつがいる」
アリオスの一言は、いつもよりも暗く、低いものだった。
その変化に気づき、アンジェリークがびくりと体を震わす。
「・・・アリオス? どうしたの? なんか・・・怖いわ」
「いや、なんでもない。気にするな」
変な不安を持たせてしまったことを後悔しながらもアリオスは、
いつもの笑いを口元に戻して言った。
「ほら、今開けるから、よーく見てろ。二度とこんな事しねえからな」
「えーっ!! だって、来年も祝うのよ」
「フッ、来年だって? そらまた気長な話だな」

来年は、俺はいないんだぜ。

この宇宙も、女王の力も、おまえも、全部俺が奪うからな。
・・・いや、奪うはずなんだ。
おまえも・・・この宇宙も・・・。チッ。

アリオスは心の中で囁いた。
自分の中で首をもたげた矛盾に気づきながら・・・。

「・・・ねえ、アリオス。今日のあなた、なんか変だわ。
 さっきからぼーっとしてることが多くて」
アンジェリークが不安そうに、眉根を寄せてアリオスをじっと見つめている。
「なんでもねえよ。気にするな」
「するよ、気になる」
そう言ってアンジェリークは、つま先立ってアリオスの額に手を当てた。
ひんやりとした彼女の手が気持ちいい。
「うーん、少し熱っぽい・・・かな?」
「熱ぐらいで俺が倒れるわけねえだろ? 平気だから、心配すんな」
まだ怪訝そうなアンジェリークだったが、アリオスに言われて手を引っ込めた。

それから、改めてアリオスは小箱のリボンを解き、包装紙を丁寧に剥いだ。
箱を開けると、中には指輪が入っていた。
青い石が一つだけ、シンプルに付けられている。
どこまでも澄んだ海の青さを思わせるような石。
水底までが透けて見える、そんな海の青さに似ていた。
「・・・もしかして、俺にコレをしろっていうのか?」
「うん。そうだけど、気に入らなかった?」
「いや、気に入らなかったわけじゃない。
 ただ、アクセサリーはつけない主義なんだが」
「そっ、そんな・・・」
「ハハッ、冗談だよ、冗談。真に受けるな」
実は本当だったのだが、アンジェリークがみるみるうちに
涙を瞳にためるのを見て慌てて付け加えた。
するとアンジェリークは、またも、ぷくーっとふくれっ面をしてみせる。
「もうっっ、アリオスったらひどい!!!」
拳を固めてアリオスを叩く真似をするアンジェリーク。
「見物だったぜ、おまえの百面相。
 まったく、ここまでよくコロコロと変わるもんだぜ」
そう言いながらアリオスは小箱から指輪を取りだし、試しに左の中指にしてみる。
驚いたことに、指輪はぴたりとはまった。
「おまえ、俺のサイズとか知ってたのか?
 いや、そもそも俺の誕生日をどうして知ってんだ?」
「ふふっ、メルさんにね、占ってもらって」
ぺろっと舌を出しながら、はにかんで笑うアンジェリーク。
「本当は、今あなたがほしがっている物を占ってもらおうと思ったんだけど、
 なんか上手くいかなかったみたい」

俺が、今欲しいものだと?
それは簡単だぜ、アンジェリーク。

アリオスは箱を投げ捨て、そのままアンジェリークを強く抱き寄せた。
「!!?? アっ、アリオス、どうしたの!!」
突然のアリオスの奇行にアンジェリークは驚き、
強く抱き締められたことで息ができなかった。
「苦しいよ、アリオス・・・」
「少しだけ我慢しろ。これが、俺の欲しいものなんだからな」
耳元で囁き、アンジェリークの背中に回した腕に力を込める。
「今だけは、こうさせてほしい」
「アリオス・・・」
栗色に波打つアンジェリークの髪に顔を埋め、アリオスは束の間の幸せを貪った。

どのくらいそうしていたのだろう。
アンジェリークを解放してやると、アリオスは彼女の指にも自分と同じ指輪が光っていることに気づいた。
やはりシンプルに一つだけついている、明るい緑色をした宝石。
その色はまるで、海中を照らす光の道筋のよう。
青いはずの水を緑色に変えながら、光は水底を目指す。
海中では孤独な光・・・。

そうか、これはお互いの瞳の色か。

アンジェリークもアリオスの視線に気づき、よく見えるように手を差し出した。
「今日のことをずっと憶えているように選んだのよ」
「クッ。妙なことに気を回しやがって。女ってのはみんなこうなのか?」

あいつもそうだった。

その言葉を飲み込んでアリオスは、もう一度アンジェリークを抱き締めた。
わき上がる気持ちが抑えられなかった。愛しくて、たまらなかった。
「俺のこと、忘れないって言うのなら忘れるな。この先、何があってもな」
「もちろんよ、アリオス。大好きなんだから」
元気に答えたアンジェリーク。

だが、アリオスには分かっていた。

二人の道は、いつか必ずぶつかる。それは、戦いという形を取って。
きっと彼女は泣くだろう。その笑顔を奪うだろう。
それでも憶えいるというのか、アンジェリーク。
おまえは、俺を憶えていられるのか。
回りだした歯車は止められない。最後の日まで、止まらない。
それまで、それまで・・・。


この作品はアリオスバースデー企画・【魔導夜会】の参加作品です。

思い切ってアンジェリークに「指輪」をプレゼントさせてしまいました(汗)
普通は男性から女性にプレゼントするものかとも思うのですが、
渡してる本人(アンジェリーク)自身満々です(爆笑)
一生モンになるプレゼントならやっぱり、
印象深いものをあげるのが一番ですよね。
お互いの瞳の色っていうところがポイントです。
綾水が書くお話なので、いつもどーりシリアスで悲しい結末なのですが。

アリオスってきっとアクセサリーとか嫌いなのかなー、と思った矢先!!
なんとトロワではごついアクセがお好きだとかの話題が・・・。
かっこいい男は何やってもサマになってるぜ。