ティムカ。
最初に会った時から・・・なんだか気に食わねえヤツだと思っていた。
妙に気が回るし、言葉遣いは丁寧。
物腰は柔らかいし、誰にでも好かれる。明るくて素直。
なによりも・・・あいつは一国の王子。
将来を約束された王子。
誰からも信頼厚い、王子だ。
だから気に食わねえ。
あいつは・・・俺にないモンを持ってる。
あいつにだけは・・・。ボカッッ
「・・ってぇな・・・」
「あっ、すみません」
芝生で寝転び、昼寝をしていたアリオスの頭を誰かが蹴っ飛ばした。
「本当にすみません、お怪我はありませんか?」
「ああ。・・・って、なんだよ、おまえか」
薄目を開けて声の主を確認すると、やはりティムカだった。
心配そうに見るティムカに、しっしっと手を振った。
「えっ?」
「いーから、気にすんな。どこも怪我なんてしてねーよ。だからあっち行け」
「あっち・・・行けって」
「その言葉どおりだよ。ったく、ロクに昼寝もできねーな」
悪態をつきつつ寝返りをうち、アリオスは再び寝に入ろうと思った。
「あのー」
再びティムカの声がした。
「なんだよ、うるせーな」
「あっ、すみません・・・」
「謝ってねえで、さっさと用件言えよ」
「はい。こんなところで寝ていると風邪をひきますよ」
「はぁ? ご心配は感謝して受けるが、あいにく俺の体はどこぞの
おぼっちゃんみたいにヤワじゃないんでな。風邪の心配はいらねえよ」
「・・・それって、僕のことを言ってませんか!!」
珍しくティムカの語調が強くなった。
興味が湧いてアリオスは再び目を開き、ティムカを見上げた。
「そう聞こえたんならそうだろうよ。クッ」
嘲笑めいた笑いを浮かべられ、ティムカは頭に血が上るのを感じた。
「僕はそんなに弱くありません!! むしろ体は鍛えています」
「ほーう。そんならこの旅も楽勝ってかんじか?」
宇宙は今、危機に瀕していた。
皇帝と名乗る男からの侵略を受けている。
一刻も早く、囚われている女王と補佐官を助けなければならない。
そのために新宇宙の女王と守護聖たちは戦っていた。
今はその旅の合間。
「そんなことありません!! これは一刻を争う大事な旅です。
楽勝なんて言葉で表すなんて、ひどいです!!」
顔を真っ赤にして怒るティムカを、アリオスがおかしそうに笑う。
「冗談だよ、じょーだん」
「なっ・・・。ひどいですよ、アリオス!!」
拍子抜けしたようにティムカが呆けてしまった。
それを見届けてからアリオスはもう一度手を振って、ここから離れろと指示した。
「俺を寝かせてくれ。疲れてんだ」
「・・・アリオス・・・」
そしてアリオスはごろりと寝返りをうち、瞼を閉じた。
今度こそ深く眠ってやろう。そう思った矢先。
ララ〜♪ ラララ〜ラ〜♪
ルル〜ル♪ ララ〜ラ♪ ルルル〜♪
「・・・??」
歌声が聞こえた。ティムカの澄んだ声で聞こえてくる。
ガバッと跳ね起き、アリオスは見た。
自分の傍らで座り込み、膝を抱えて気持ち良さそうに歌うティムカの姿を。
ララ〜♪ ラララ〜ラ〜♪
ルル〜ル♪ ララ〜ラ♪ ルル・・・
「おい!!」
怒気をはらんだ「おい」に、ティムカがびくりと体を振るわせた。
そして怒りに燃えているアリオスの瞳をじっと見る。
「あっ。起こしてしまいましたか?」
「起きるぜ、そりゃあ。歌なんか歌われたら眠れるもんも眠れねーよ!」
「ああ、すみません。お疲れだと言っていたので、僕の故郷に伝わる子守唄をお聞かせしたくて」
「・・・こもり・・・うた!?」
確かに心地よいメロディだった。
あのまま聞きつづけていたら眠りに落ちたかもしれない。
「でも、大人の俺に『子守唄』はねーんじゃねぇか?」
「・・・あっ、そうですね! うっかりしていました」
はっと口に手をやり、ティムカが恥ずかしそうに顔を染める。
「でも、ゆっくり眠ってほしかっただけなんです、本当に」
うるうると瞳を揺らすティムカ。
見ていられず、アリオスが顔をそむける。
「ああ、ああ。分かった、分かったから! そんな目で見んなよ・・・」
「あ、そうだ」
「今度はなんだよ?」
「ずっと気になってたんですけど。アリオスっていつも夜になったらいなくなりませんか?」
ぎくっっっ
今度はアリオスが肩を振るわせた。
「僕、この前アリオスに渡したいものがあって夜に部屋を訪ねたんですけど、いなかったんです」
「そっ、そうか? 夜だったからおまえの見間違いじゃねーのか?」
「いいえ!! 僕、目はいいですから」
きっぱりと言い放つティムカにアリオスは気おされそうになった。
「この前だけではないです。よく夜にいなくなっていませんか?」
「・・・そんなの、大人のオトコに聞くのは良くないと思うぜ。王子サマ」
うやむやにはぐらかそうと、無理に『大人』の話にこじつけた。
今は、あのことに気づかれてはいけない。
計画がすべて台無しになる。
我の、計画が・・・。
「俺がどこに行ってたか知りたいなら、おまえも早く大人になることだな」
「・・・そうなんですか?」
「そうだ!! で、何を渡したかったんだよ」
有無を言わさない強い口調でティムカを押さえてから、アリオスは話題をそらした。
「あっ、はい。えっと、これなんですけど」
そう言ってポケットの中をごそごそとあさり出す。
まもなくティムカの手に握られていたもの。
それは・・・『笑い袋』だった。
「・・・おい。これはなんのつもりだ??」
静かな怒気が含まれる一言だが、ティムカには伝わっていなかったようだ。
「お店で売っていたものなんです。えへっ」
「『えへっ』じゃねーよ! なんでコレを俺に渡そうと思ったんだ?」
「時々、アリオスってとっても怖い顔をしているから。それで」
「怖い顔?」
「ええ。特に・・・アンジェリークを見て」
「チッ。そんな顔してねえよ。だからそれは」
「ええーっっ!! 受け取ってくれないんですか!?」
言葉の先を取られ、ティムカがまた瞳をうるうるとさせた。
「そんな・・・。せっかくアリオスのために選んだのに。
きっと、アリオスは疲れていてあんな怖い顔をしているんだ。
だから思いっきり笑えば、疲れも消えると思って。それで、それで・・・」
今にも泣きそうな少年の様子を見て、アリオスは頭を抱えた。
「あー、もう。分かった。分かったから。それ、受け取るぜ」
「えへっ。ホントですか?」
「・・・おいおい」
どうやら泣きまねだったらしい。
意外なところで頭の回る王子様に、アリオスは大きなため息をついた。
「さっ、アリオス。ここを押してみてくださいね」
そう言って、眉間にしわを寄せるアリオスの手に笑い袋を押し付ける。
仕方なくアリオスは、結果がわかっていながらも、
『ここを押してネ★』と書かれたボタンを押す。
ぐわーーっっっはっはっはっ
ひゃぁーーっっはっはっはっ
うぇっっっへっへっ うひょっ うひょっ
ぷっ はははははは(以下略)
「・・・これ、おもしろいか?」
ぼそりと呟く。
「えっ、なんですか?」
「なんでもねえよ。ありがとよ、ティムカ。
この品物云々よりおまえの気持ちをありがたく受け取っておくぜ」
「ありがとうございます!!」
「じゃ、用は済んだな? 今度こそさっさといなくなれよ」
答えも聞かずにアリオスは芝生に寝転び、そして目を閉じた。
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風に感じる温度変化にアリオスは目覚めた。
顔を撫で、眠気がまとわりつくのを振り払い、頭を覚醒させる。
気づけば太陽は西に傾き、もうすぐ夕闇が空を支配する。
そろそろ宿に戻らなければ。
そう思い、ゆっくりと起き上が・・・ろうとしたのだが。
なんだか様子がおかしい。足が重たい。何かが上から乗っているような。
ぎょっとして足元に目をやると、ティムカが、いわゆる膝枕の要領で眠っていたのだ。
すやすやと、気持ちよさそうな寝息を立て。
「・・・おい」
不機嫌丸出しなアリオスの声。だが、ティムカには届いていない。
「ティムカ、起きろ。もう夜になっちまう」
「うーん・・・むにゃむゃ・・カムラン・・・はははっ」
「誰だよ、カムランって。女か!?」
とツッコミを入れつつ、アリオスはティムカを起こそうと試みた。
注意深く上半身を起こし、ティムカの体を軽く揺さぶる。
頬をつねり、耳も引っ張るが強情に起きようとしない。
「一国の王子様が、敵の前でこんな無防備な姿を晒していいのか?」
と、ため息混じりに呟く。
だが、ふっとアリオスの表情が微笑みに変わった。
「まあ、まだ幼いってトコなんだろうけどよ。仕方ねーな」
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規則正しい心臓の音がする。
ティムカは耳に届く鼓動で覚醒した。
そして、なんとなく自分が揺れていることにも気づいた。
足を動かしていないのに、体が移動しているということに気づく。
「・・・アリオス!?」
「よう。お目覚めか、王子様?」
その声はティムカの頭より下からした。
そう。ティムカは眠ったままアリオスにおぶさっていたのだ。
「何度も起こしてんのに起きねえから、ここまでつれてきてやったぜ」
「あっ、ありがとうございます。そっ、その・・・」
「礼なんていい。それより・・・そろそろ降りてくれねえかな?」
「わっわっ、すみません。降ります!!」
地面に下ろされると、ティムカの顔が羞恥で赤く染まる。
「僕、ついうたた寝を・・・。芝生の上で寝るの、大好きなんです」
「ほーう、そりゃ奇遇だな」
アリオスはコキッコキッと肩を鳴らしてから、ティムカに答えた。
「俺も、芝生の上で昼寝するの、好きだぜ」
「ほんとですか!? わあっ、嬉しいです!!」
ぱっと顔を輝かせて喜ぶティムカ。
「あなたみたいに強い人と共通の点があるなんて、嬉しいです!」
「おいおい、なんでそんなに喜ぶんだよ」
「ええっ、だって、嬉しいですよ。人と共感できることができるなんて」
無邪気に微笑むティムカを見て、アリオスもつられて笑った。
「まっ、そーゆーことにしておいてやるか」
「はい!!」
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翌朝。
メルの占いによると驚くような結果が出たそうだ。
かなり低かったアリオスとティムカの相性が、急激に上がったらしい。
二人の間でどんなことがあったのか、まわりはまったく分からないが。
「おっかしーな。メル、何もしてないのにぃ〜」
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