ずっと僕は空虚だった。
人の死が分からないから。だから、人の生も分からないから。
僕は、ただ動くだけの人形。
レヴィアス様のためだけに動く、知識ある人形。
僕は一度死んだはずだった。なのにある時突然、僕の意識がはっきりした。
その寸前まで覚えているものは処刑の記憶。
皇帝への反逆罪で捕らえられ、残忍な殺され方をした。
だが、なぜ僕は「生きて」いるのだろう。
なぜ、意識があるのだろう? なぜ、生かされているのだろう。
疑問はすぐに解消された。
レヴィアス様が魔導によって、新しい肉体へと僕たちの魂を入れて下さったのだ。
復活の魔導にはいろいろな制約があると言う。
魂を受け入れる器となる者は、そこらへんにいる者では足りない。
しかも復活が完成するまでは、元の人間を殺してはいけない。
そして、何よりも復活の儀式には膨大な魔力と体力が必要なのだ、と。
そのすべてを整え、死の眠りについていた僕たちを再びこの世へ呼び戻してくださった、
レヴィアス様に感謝しなければならない。
そして、再びお役に立たなければならない。
宇宙の皇帝として、レヴィアス様が君臨するために。
僕たちは、レヴィアス様が新たに侵攻されたこの宇宙で、
尊い存在と崇められる守護聖の血を使って復活したらしい。
僕はその守護聖の中で、器用さを司る「鋼」の守護聖の肉体を与えられた。
日焼けした肌、紅に輝く瞳、引き締まった筋肉。
そのどれも、僕自身のものではない。僕は、こんな外見はしていなかった。
肉体は守護聖のものだとしても、僕は僕だ。この体には僕がいる。それは、紛れもない真実。
鏡を何度見ても慣れることはないだろうが、今はこの体で働かなければならない。
僕は魔導生物の量産を命じられた。一人孤独に、部屋でずっと研究に打ち込んだ。
僕にとって一人きりは苦ではない。むしろ、喜ばしい環境だった。
研究に没頭できる。ただ一人、自分の知識と時間とだけ戦えばいい。
成果も上々でレヴィアス様のお褒めにもあずかった。
・・・これだけでも、僕の存在意義は達成されている。
しかし・・・。彼女たちがやってきたのだ。
この宇宙で生を受け、育ち、そしてもう一人の女王として他の宇宙に君臨する少女。
栗色の髪の少女のまわりには、僕たちの手から救出された守護聖が常にいる。
レヴィアス様の周りにも僕たちがいる。
でも、レヴィアス様とあの少女とでは、まったく違っていた。
彼女は、輝いていた。
生命の力に満ち溢れ、暖かな笑顔を振りまき、見る者の心を和める。
輝き・・・そう、彼女はとても輝いていた。
その輝きが、光が、あれほど人を引きつけるのだろう。
守護聖だけではない。街に住む男も女も、子供も、彼女のまわりに自然と集まる。
不思議な存在だ。
僕はレヴィアス様に命じられ、人の心の悪をどうしたら増長させられるかを研究していた。
彼女はそんな僕の研究の対極にいた。だから、だから僕は彼女に興味があった。
興味があったから、ずっと見ていた。見続けてしまった。だから、知ってしまった。
彼女の魅力に。
僕には欠けている、生命の輝きを欲しいと思うようになった。
・・・うらやましいと思った。
敵にこんな思いを抱くのは初めてだ。
命じられれば殺す、それが僕。
なのに、なぜかこの戦いに僕はためらいがある。そんな自分に戸惑いを覚えた。
この体、彼女を女王として慕う守護聖の体に、自分が入ってしまったからなのだろうか。
違う。彼女を見続けるのは僕の意志。僕、ショナの意志だ。
彼女と話したい。彼女が何を考えているのか知りたい。
彼女と・・・ 友達になりたい。
日々、その欲求は膨らんでいった。叶わぬ願いが大きくなる。
彼女の姿を追う度に、自分の気持ちが抑えられなくなることに気づく。
でも・・・僕たちは敵同士だ。
そして、戦う時が来てしまった。
これだけは避けられなかったし、避けるつもりもなかった。
話してみたかったが、やはりレヴィアス様の敵が向かってくるのならば、迎え撃たねばならない。
僕は全力を尽くした。しかし形勢は不利だった。勝負はついた。
もう僕には残された力はない。魔導の力を秘めた石も、今はただの石コロになっている。
悪あがきもするつもりは無い。戦う術も残っていない。
これで十分、復活させて下さった、レヴィアス様のご恩にも報いることができたと思う。
だから僕は・・・。
僕は、最後に彼女と話した。
ずっと聞きたかったこと。
彼女に尋ねたかった事を。
その願いをかなえることにした。
「君はどうなの? 死ぬのが怖いと思ってる?」
「・・・怖いわ」
彼女の答えは、ごく当たり前のものだった。思ったとおりだった。
レヴィアス様に立ち向かう彼女でも、死は怖いんだ。
死を恐れるからこそ、今の生を楽しめる。
・・・ふふ。そうだよね。そうだ、そうなんだ。
心の中で僕は笑った。僕を包む満足感によって、本当に笑えた。
生まれて初めて、この体の中の空虚さが満たされたような気がしたから。
ぐらりと僕の体が揺れた。もう立っていることもできない。
すると彼女が慌てて手を差し伸べ、支えてくれた。
敵味方を問わない慈愛の心。彼女のその心がぬくもりとなって僕の体に流れる。
大半の血が流れ出てしまった冷たい体に、優しいぬくもりが伝わる。
まるで、暖かな毛布に包まれているような感覚。
ああ・・・もしかすると、僕はこれを望んでいたのかもしれない。
かすむ目で彼女を見た。
死を恐れる彼女は、僕を見つめるまなざしも優しかった。
敵を倒したという達成感は微塵も感じられない。
冷酷な感じは一つも受けない。
彼女からは憎しみが感じられなかった。
魂が休まる場所。
彼女の腕の中はそう、例えるならそれだ。
心を許し自分のすべてを預けられる、暖かな包容力を感じる。
そうか・・・だから彼女のまわりはこんなに暖かかったのか。
だから僕は・・・彼女に憧れていたのか・・・。
多くの人を殺した血で汚れ僕に、君は眩しすぎるよ。
もっと早く・・・君に・・・会いたかった・・・。
輝く翼の天使に・・・。
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