桜の祝福
(Side・LUMIALE)今日は日の曜日。
あの人と、約束をしている日。
私は、いつもより早く目覚めてしまいました。
昨晩も緊張していたのか、なかなか寝付けず。
安らぐためのハーブティーをいれては飲み干し、
そしてまた、彼女のことを思い浮かべてしまう。金の髪の女王候補、アンジェリーク。
私たち守護聖は公平な立場で彼女ともう一人の候補を見なければならないはず。
なのに・・・。私の心は、あの金の髪の少女へと傾いている。
そう気づいたのは少し前のこと。
足繁く通う彼女を何とはなしに見ていた、あの瞬間。執務室の窓から差し込む太陽の光が、アンジェリークの髪の上できらめき、弾み、そして。
まるでその光が私に暗示をかけたように、アンジェリークから目を離すことができなくなって。
心が奪われた瞬間。そう、あの時・・・。
かわいらしい口元、柔らかい声、やさしい眼差し、しなやかな指先。
その全てが、あの時から、私の心をとらえて離さなくなりました。
偏り見てはいけないという命に逆らっても、彼女と共に過ごしたいと願うほど・・・。私たちは女王候補と親しくすることは許されています。
しかし、ある一線までは。
でも、私の心はその一線を踏み越えたくて仕方がない。
もっとアンジェリークに近づきたい。彼女に触れたい。彼女の柔らかさを、暖かさを感じたい。
こんな欲望をはらんだ自分に、私自身戸惑います。
一体、自分は何を考えているのかと疑うほど。彼女は私のことをどう思っているのだろう。
アンジェリークの前に立って、果たして、私は自分を保っていられるのだろうか。
ずっとその自問ばかりを繰り返していました。
邪な想いは日々強くなるばかり・・・。そんな時、彼女から日の曜日に会いたいとのお誘いが。
私はこの誘いで自分に答えを出すべく、彼女を今日、湖にお連れすることにしました。
お誘いするのはとても勇気のいることでしたが、
アンジェリークの微笑みと心からの返事がすべての不安をぬぐい去ってくれました。
湖で私は彼女に告白しよう。・・・そう決めていました。
私が彼女を、アンジェリークをどう思っているのかを。
彼女から出されたいかなる答えも受け止める覚悟はできています。行きましょう、アンジェリークのもとに。勇気を出して。
約束の時間より少し遅れてしまいましたが、
アンジェリークはちゃんと待ち合わせた場所で待っていてくれました。
「こんにちは、アンジェリーク。申し訳ありません、お待たせしました」
「いいえ、全然待ってないです。私も、今さっき来ましたから」今日の彼女は一段とかわいらしく見えます。
普段見慣れている装いとは違うからでしょうか。
それに、なんと芳しい香りなのでしょう。風が彼女の香りを私に届けてくれる。
香水の香り? それとも、彼女自身が放つ薫り?
鼻をくすぐる薫りが、まるで私を別の世界へ誘うよう。
気がつけば、アンジェリークも私を見つめていました。
しかし、気のせいか少し顔が赤い様・・・。「どうかしましたか、アンジェリーク。少し、顔が赤いようですよ」
「えっ!? あ、あの、なんでもないんです。大丈夫です、リュミエール様」
慌てて手を振り否定するアンジェリークは、ますます顔を赤らめてしまいました。
その様子もまた、たまらなく愛おしい。今すぐ、この場で抱きしめたいほどに・・・。
しかしそれは、私の気持ちを押しつけること。今は、手を握るだけに。ああ、どうかこの手を通して、アンジェリークに私の震えが伝わりませんように。
私は緊張しているのですよ、アンジェリーク。こうしてあなたと歩けることが嬉しいのですよ。
そう心でささやきながら、彼女を連れて歩く。そこにはボートを用意しました。
これから二人だけで向かう、私の秘密の場所へ。ボートの場所に着き、これに乗るのですと伝える。
少し驚いたようですが元気のいい返事をくれるアンジェリーク。
その答えだけでも、今日ここにお誘いして良かったと思える。
「では、参りましょうか。危ないですから、しっかりつかまっていて下さいね」
ボートに私たちは乗り込み、ここまで持ってきていたスケッチブックを預け、
私は目的地へ向かい漕ぎ出しました。彼女を見ていると、自然と笑みがこぼれる。
私の中のサクリアが勢いよく湧き出るのを感じる。
これこそが喜び、あなたといるこの時間こそが幸福。その時の私は漕ぐことに集中していたので、
アンジェリークの心の変化に気づきませんでした。
目的の場所とは、聖地で一番美しく桜が咲く所。
湖の周囲をぐるりと桜の木で囲まれている場所。
花はちょうど今日が満開、そう聞いていたので私はどうしても今日、あなたをお連れしたかった。
「うわぁ・・・」
桜に見とれるアンジェリークはそれ以上言葉が出ませんでした。
私も一緒に桜を見上げ、そして、アンジェリークに目を戻すと金の髪に、
風で舞い落ちた桜の花びらがひとひら絡まっていました。
髪の上で跳ねる、金の輝きに吸い寄せられるように、
私の指は丁寧に花びらを外して、また彼女を見つめる。
するとアンジェリークは急に、苦しそうに顔を赤らめながら胸を押さえていました。
先ほど陸でも顔が赤かったようですし、もしかすると、
彼女は私のために無理をして来てくれたのではないかと不安にかられました。
風邪や病気でしたら尚更いけない。彼女の大切な身に万一があっては。「苦しいのですか、アンジェリーク? 陸に上がりますか?」
「いいえ、大丈夫です。まだここにいたいです、私」
「でも、さっきは顔が赤かったですし、今は苦しそう。本当に、大丈夫ですか?」
もっとアンジェリークの様子を近くで見ようと顔を近づけると、
彼女はにっこりと微笑み、そして言いました。
「リュミエール様。私、もっと桜を近くで見たいんです」
心配ではありましたが、彼女が大丈夫だと言う言葉を信じて私は、
桜の太い枝が湖まで張り出している真下にボートを止めました。
見ればアンジェリークの顔色も落ち着いたよう。
先ほどの様子は本当になんでもなかったのでしょうか。
私はほっと安堵し、そして、花びらに埋もれるように隠れている小鳥を見つけました。「アンジェリーク、あちらを見てください」
「えっ、どこですか? うーん、分からないな・・・」
どうやら彼女の見ている方向は全く違っています。
私はアンジェリークに近寄り、彼女の背中に体を合わせ、そっと手を取り方向を示しました。
「ほら、あそこですよ。見えますか?」しかし、アンジェリークは私の指さすところではなく、じっと、私を見つめていました。
心なしか、彼女の瞳が潤んでいるような気がします。
光を反射して、湖面と同じくきらきらと輝く。
・・・ああ。また私はこの輝きに暗示をかけられてしまう・・・。その時になってようやく私は、自分のしている大胆な行動に驚きました。
アンジェリークを膝で挟み、体を密着させている。
胸で彼女の息づかいを感じ、柔らかな体の感触と体温が私の鼓動を早くしている。
・・・なんと・・・。なんと自分勝手な行動なのでしょう。
彼女のことを親切に思えばこその動作かも知れませんが、今の私には・・・。
私には・・・親切以上の感情がある。これは、なんとやましい気持ちなのでしょう。私は忘れかけていた、ここに来た目的を思い出しました。
今こそ、私の気持ちを伝えるべき時なのでしょう。手を取ったまま動かない私を怪しみ、アンジェリークが振り返る。
「あ、あのっ、リュミエール様?」
「・・・申し訳ありません、アンジェリーク。私は、私は・・・もう自分を止められません。」
声が震える。しかし、その続きの言葉が見あたらず、言葉よりも先に私の体は早く動いた。
アンジェリークを背中から強く抱きしめ、その柔らかな体を全身で感じる。
あまりの喜びに声だけではなく体も震える。
このまま時が止まってくれれば良いと、ほんの一瞬のうちに何度願ったことでしょう。アンジェリークが驚き慌て、首をめぐらせて私を見る。
「リュミエール様?」
「申し訳ありません、アンジェリーク」
私は適切な言葉が思いつかず、ただ謝るばかり。
困惑したアンジェリークの頬を両手で包み、そして・・・。
ガラス細工よりも繊細で、どんな羽毛よりも柔らかなアンジェリークの頬に、
優しく口づけをしました。その瞬間。
すべての音が消え、何もかもが動きをやめた時、私の中に彼女しか存在しなくなった。アンジェリークは何も語らず、じっと私を見つめている。
頬をバラ色に染めながら、私が何か言うのを待っているよう。
「今日、こうして貴女と二人きりになれてとても良かった」
もう一度アンジェリークの手を取り、私の頬に当てる。
「私は・・・ずっと、あなたが好きっただったのです」
彼女の心のぬくもりが、私の怯える心に届くように。
そう願いながら、アンジェリークの手を頬に押し当てる。私は完全に自分の気持ちを押しつけてしまった。
ああ、どうか怒らないで下さい。どうか、私を拒絶しないで下さい。
何も言わないあなたに無理矢理こんなことをしてしまった私を許して下さい。私は恐れながら、彼女の出す答えを待っていました。
長い長い時が過ぎたような気がしましたが、答えは意外なカタチで示されました。アンジェリークはそっと首を伸ばし、私の頬に、軽くキスをしてくれたのです。
私はどきりとし、驚きのあまり少しだけ体を反らしてしまいましたが、
彼女は何も語らず、ただにっこりと笑いかけていました。
それはいつも執務室で見せてくれる、あの笑顔。
また会いたいと願わせる、魔法のような微笑み。ああ、もしかすると私たちは相思相愛だったのでしょうか。
あなたは私を受け入れて下さるのですね。
今までの身勝手な行動をすべて許して下さる、なんと愛情深い少女なのでしょう。怯えていた心がアンジェリークの優しさで解かされ、
今まで押さえていた彼女への思いが溢れ出る。
たまらない愛しさを感じ、私はもう一度堅く抱きしめ、耳元で囁いた。
「ありがとう。愛しています、アンジェリーク」こうして私たち二人の、つらい片思いは終わりました。
これからは二人で愛情を育てていきましょう。
あの日二人で見た、桜色の、優しい色に包まれながら。部屋にはあの日あなたを描いたスケッチブックがあります。
まだ色を着けてはいませんが、心の中に鮮やかに蘇る、
あの時の景色とあなたの色は、胸の高鳴りと共に、いつだって思い起こせます。瞼に浮かぶ、あの桜色が、私たちが愛し合っているということの証。
きっとずっと色褪せることはないでしょう。これから、ずっと。永遠に。
これは、Milchstrasse様との相互リンク記念に差し上げたものです。
先に出来上がっていた「桜の祝福」のリュミエール・バージョンです。
女の子の側からリュミ様を慕う気持ちは分かっても、なかなかリュミ様の気持ちをつかむことができず、
ちょっと苦労した一品です。でも、その分ラヴが・・・☆
ああっ・・・。やはり、リュミエール様は悩んでいる姿が、美しい(笑)![]()
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