桜の祝福
(Side・ANGELIQUE)今日は日の曜日。
朝からウキウキしちゃう。そう、今日は大好きなあの人との約束の日なんだもん。
優しさをつかさどる「水」の守護聖リュミエール様。
一目会った時からずっとお慕いしているの。今でも忘れないわ。
初めて視線が合ったときの、あのトキメキ。
女王試験も日の曜日はお休み。だから、勇気を出してお手紙を書いたの。
『日の曜日にお会いしたいんです』
・・・結構大胆な文章かも。
でもリュミエール様はすんなりOK。やったー☆
しかも、ご自分が1番気に入っている、森の湖のほとりで待ち合わせ。
初めてのデートがそんなロマンチックなところで、私、もうドキドキ。
どんなことがあるんだろう・・・。うふふ。
いつもより時間をかけておめかし。あっ、そうだ。
オリヴィエ様からいただいた香水をつけてみよう。ぷしゅっ ぷしゅっ
うーん、いい香り。このフルーティな感じが気に入ってるの。
リュミエール様も気に入って下さるかしら?
わぁ。今日もお天気いいなー。日差しが強いかも。
そうそう、こんな日はちゃんと帽子被らないとね。
あとで、日に焼けたりシミができたりしたら困るもん。
えーっと、麦わら帽子はここだよね。
うん、ばっちり。よーっし、出かけようっと。湖についたわ。
あれ? 私の方が先に着いたみたい。それじゃ、のんびり待ってようっと。
いつ来ても森の湖は静か。心を落ち着かせてくれるわ。
鳥のさえずりと水の音しかしない。涼しい風が包んでくれる。
ああ。まるであの方に抱きしめられているみたい。・・・なんちゃって。
ガラガラガラ ガタタンタン ガチャッ馬車の音がする。あっ、リュミエール様だ。
そっか、リュミエール様の私邸って、ここから遠いんだっけ。いつか遊びに行きたいなー。
降りて来られたわ。
はぁー・・・。リュミエール様ってキレイ・・・。
淡い髪の色、司る力と同じ水色の瞳。しなやかな指先。すらっとした背。
今日はいつものお洋服じゃないわ。そっか、休日だから私服になっておられるんだ。
ズボンを履いてるから、足が長いのがいつもより目立つなぁ。
本当に、かっこいい・・・。「こんにちは、アンジェリーク。申し訳ありません、お待たせしました」
「いいえ、全然待ってないです。私も、今さっき来ましたから」
着ているお洋服が違っても、人を気遣って選んでくださる話し方は変わらない。
優しい言葉の一つ一つが、私の心に染み込んでいく。
「・・・? どうかしましたか、アンジェリーク。少し、顔が赤いようですよ」
「えっ!? あ、あの、なんでもないんです。大丈夫です、リュミエール様」
やだ。お顔を見つめたまま、ぼーっとしちゃった。恥ずかしい・・・。
そんな私を見てふふと笑うと、リュミエール様が、あちらへ行きましょうと誘って下さる。
「今日こちらにお誘いしたのは、ぜひなたにお見せしたいものがあったからなのですよ」
「それは何ですか?」
「今はまだ秘密です。行ってからのお楽しみにしましょう。さあ、行きましょう」
そう言って、手を差し出して下さる。
あっ、リュミエール様がエスコートしてくださるんだわ。感激・・・。
その手を握ると、また私の顔が赤くなるのに気付いた。
「どうしたのですか、アンジェリーク?」
「な、なんでもないんです。行きましょう、リュミエール様」
緊張して顔を上げられないわ。
マルセル様となら平気で握れるのに、リュミエール様の大きな手を握ると、胸がドキドキする。
この胸のドキドキが、リュミエール様まで聞こえないかしら・・・。「アンジェリーク、あれに乗りましょう」
まだ途中のようだけれど立ち止まる。リュミエール様が指差すところには、
船着場に止められている一艘の手漕ぎボート。
「目的の場所にはあれに乗って行かねばならないのです」
「えっ、湖に漕ぎ出すんですか?」
「そうですよ」
嬉しそうに、にこにこと微笑むリュミエール様。
手漕ぎボートなんて、久しぶりだなー。昔はパパに乗せてもらったりしたけど。
これに二人きりで乗るなんて、素敵!!
「はい! リュミエール様」
「では、参りましょうか。危ないですから、しっかりつかまっていて下さいね」
元気良く私が答えると、リュミエール様も嬉しそうにうなづいてくださり、二人はボートに乗り込む。
そうそう。リュミエール様はやっぱり今日もスケッチブックを持って来られたの。
後で写生するんだわ、きっと。そして、リュミエール様が力強く漕ぎ出す。
ドキン
・・・!?
あっ。なんか胸の奥が痛い・・・。
リュミエール様を見ていたら、急に胸が苦しくなった。
何かしら、この痛み。今までのドキドキとは全然違う。
きゅんと心臓が音を立てる。息ができないほど。苦しいわ。
ああ、リュミエール様が眩しくて見ていられない。
どうして? どうしたのかしら、私・・・?・・・もしかして、これが、恋の痛み?
ぎっし ぎっし ぎっし
どきん どきん どきんオールがきしむ度に、私の胸も痛む。
ああ、どうしよう。私、おかしくなったのかしら・・・。「さあ、着きましたよ。アンジェリーク、見てください」
船を止められたリュミエール様が腕を広げられると、そこはぐるりと桜の木が湖を囲んでいたの。
花は今が盛りみたいで、湖の上の空も、樹が生える地面も、そして湖水も、
満開の花びらに彩りを奪われ、すべてが桜色に染められていた。
風が吹くと一斉に花びらが散り、空と湖の青をかすませる。
桜は主星に多く育つ樹の一つ。
私も小さな頃からよく見ていたけど、こんなに多くの桜に囲まれたことはなかったわ。
「うわぁ・・・」
私はそれ以外、言葉が出なかった。本当に。桜の魔力に心を奪われて・・・。
「楽しんでいただけたようですね。あなたと一緒に、これを見たかったのです」
リュミエール様が話しかけられた。満足そうな微笑み。
「恐らく、今日か明日が見頃だと知らされていたので、
あなたが誘ってくれなかったら、私からあなたを連れ出すつもりでいたのですよ」
「えっ。そうだったんですか?」
ちょっと、びっくり。
だって、リュミエール様の方から誘って下さる可能性なんて、全然考えてなかったから。
ふと、リュミエール様が私の髪の毛に目を向けられると、
そこには、さっきの風で舞い散った花びらが絡みついてたみたい。
それを丁寧に外して下さる。どきん どきん どきん
リュミエール様に触れられた瞬間。
また胸の奥が痛い。桜を見ていた時には忘れていた痛みが、また・・・。
思わず胸に手をやった私。するとリュミエール様が心配顔で私をのぞき込む。
顔が近い。長いまつげも、宝石のような瞳も、いつもより大きく私の瞳に映る。
視界いっぱいに広がる。「苦しいのですか、アンジェリーク? 陸に上がりますか?」
「いいえ、大丈夫です。まだここにいたいです、私」
「でも、さっきは顔が赤かったですし、今は苦しそう。本当に、大丈夫ですか?」
確かに、私の様子はいつもとおかしいわ。でも・・・。それは全部、あなたのせい。
あなたに恋しているからなの。
あなたのそばにいるだけで、私、おかしくなってしまうの。そう口に出したかったけど、今はやめておこう。今は、まだ。
リュミエール様を安心させるために、にっこりと笑う。
「リュミエール様。私、もっと桜を近くで見たいんです」
「・・・分かりました。あなたがそういうのでしたら、もっと近づきましょうね」桜の太い枝が湖まで張り出している真下で止めて下さる。
「ああ。アンジェリーク、あちらを見てください」
「えっ、どこですか? うーん、分からないな・・・」
リュミエール様が指している辺りを見てるんだけど、何があるのか全然分からない。
花びらで隠れているのかな?
一所懸命目を細めて見ていたとき、背中に暖かな感触が。
びっくりして振り返ると、真っ先にブルーグリーンのシャツの色が飛び込んできた。
洗いたての香りが鼻をくすぐる。
そう。リュミエール様が私の背中に体を合わせ、そして、私の手を取ったの。
「ほら、あそこですよ。見えますか?」わ、わ、大変!!
私はそれどころじゃなかったわ。
だって、リュミエール様とこんなに近くになっちゃった。立て膝で私を挟んで、寄り添って・・・。
リュミエール様の呼吸を背中に感じる。脈打つ心臓の動きが分かる。
もう少しだけ首を伸ばせば、キスできそうな距離・・・。もう少し、あと少し。だめっ!
いけない、アンジェ。今は、まだダメよ。
キスはまた今度。今は、リュミエール様が指差した所を見て。「あっ。見えました、リュミエール様」
そこには緑色の羽をした、かわいらしい小鳥がいたの。そっかこれを見せたかったのね。
ようやく見られたことにほっとしたのもつかの間。!!!!!!?????
リュミエール様は私の手を取ったまま、離して下さらないの。
「あ、あのっ、リュミエール様?」
「・・・申し訳ありません、アンジェリーク。私は、私は・・・もう自分を止められません。」
そのまま、リュミエール様はぎゅっと後ろから私を抱きしめる。苦しいほどに。
ひどく動揺した声。小刻みに震える体。
私は、慌ててリュミエール様の顔を見た。
リュミエール様はとても困ったような、それでいて、どこか悲しげな表情をしていた。
「リュミエール様?」
「申し訳ありません、アンジェリーク」
もう一度謝られると、今度は私の顔を両手で包み、そして・・・。
そして、私の頬に優しくキス。あまりの驚きと幸福感で、私は一瞬夢でも見ているかと思った。
リュミエール様も真っ赤になって、必死に弁解していた。
「私の気持ちを押し付けるような形で、大変申し訳ありません・・・。
ですが、もう私は自分を止められなかったのです」
そして、もう一度私の手を取り、まるでその体温を確かめるように自分の頬に当てられた。
「今日、こうして貴女と二人きりになれてとても良かった。
私は・・・ずっと、あなたが好きっただったのです」・・・そっか。
私たちは、お互い好き合ってた相思相愛のカップルだったんだ。
リュミエール様。困った顔をしてらっしゃる。それを解いてさしあげるなら、これしかないもんね。チュッ
私も、リュミエール様の頬にキス。そして、にっこりと笑う。
ふふふ。リュミエール様も驚いてらっしゃる。でも、ゆっくりと私の気持ちが伝わったみたい。
もう一度堅く抱きしめて下さって、耳元で囁いた。「ありがとう。愛しています、アンジェリーク」
こうして二人の、つらい片思いは終わり。
これからは愛情を育てていきましょう。
そう、この桜の樹のように。桜色の、優しい色に包まれながら。部屋に飾った麦わら帽子。
リボンに桜の小枝が一つ刺してあるの。
あの日の私たちを記念して。二人の心が結ばれた、あの日の桜。
桜の樹が、私たちの証人よ。私たちが愛し合っている、っていうことの。アンジェリークトレーディングカードPART2のNO99を題材に書きました。
いわゆるコミックの6巻の表紙のイラストです。
まさに、綾水の妄想モード炸裂作品ですね(笑)
桜の花とリュミエール様・・・。
夢のような取り合わせに、書いている本人もうっとりです(笑)![]()
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