蒼の音色 愛の唄

「あなたが…好きです」
その言葉が、青い空の下、天に誓う様にリュミエールの口から発せられた時
アンジェリークは息が止まった。
直後、鼓動が膨れ上がっていくのを感じた。

そして、涙が滲んだ事も…

「ごめんなさいっリュミエール様…私、私…」

顔が紅く染まるのが自分でもはっきりわかった。
ただただ、謝った。
私は違う。
私、リュミエール様に好きになってもらえる様な女の子じゃない!

アンジェリークはその場から逃げる様に駆け出した。

リュミエールはうつむいたまま、暫く動かなかった…


バタンッ!

アンジェリークの部屋の扉が大きく音を立てて閉じる。

はぁはぁ…っ

息が苦しい…
心臓がちぎれそう…っ!

「…リュミエール…さ…ま…っ」
アンジェリークはその場に崩れ落ちた。
涙が止まらない。


羨ましい…
リュミエール様にそんな風に思われる
「アンジェリーク」が…


リュミエール様の前の私。
それは私じゃない。
私はリュミエール様が思う様な可愛い女の子じゃない。


勝気で、素直じゃなくて、厳しい事だって平気で言ったりする。
やわらかい物言いや…女の子らしいしとやかさもない。

リュミエール様の前の私は、本当の私の正反対。
しとやかで、素直で、思いやりがあって…
私の理想の女の子。
リュミエール様は可愛くて儚げな女の子が好きだと
誰かに前に聞いた事があったの。
だから、リュミエール様に好かれる様な女の子を目指したのよ。

でも、私じゃない私。
いつもリュミエール様の前で演じ続けてた。
嫌われたくなくて…
本当の私を知られたら…
リュミエール様はこんなコ嫌いでしょう?

大好きなリュミエール様。
あなたに好かれる為に私は私を捨てた。

わかってたのに…
こうなる事は………


アンジェリークはのろのろとベットへ自分の体を運んだ。
涙はもう出ない。
枯れ果てたあとはただ朽ちてゆくだけ。

明日、リュミエール様に謝ろう。
今まで騙していた事…ごめんなさいって。
そして、もうあなたには関わらないから、と…

アンジェリークの口元に笑みが浮かんだ。

「クスッ」

…リュミエール様はどう思うかしら?
私がこんな女の子だって知ったら…


その時、アンジェリークの部屋をノックする音が聞こえた。
誰だろう?
今日はもう誰とも会いたくない。

「アンジェリーク!大変だよ!!アンジェリークッ!!」
同じ女王候補、レイチェルの声だ。
アンジェリークは扉を開けた。
「…どうしたの?そんあにあわてて…」
「どうしたもこうしたもないヨ!大変なんだってばっ!」
息を整えながら、レイチェルはアンジェリークの瞳を見据えた。

「落ち着いて聞いてね。
………リュミエール様のサクリアが…無くなったんだって…」
レイチェルは辛そうに言った。

サクリアが無くなる。
それは守護聖の任を退くという事だった。
また新しくサクリアを受け継ぐ人物がこの聖地にやって来て
守護聖となる。
前任の守護聖は…もといた世界に戻らなければならない。
聖地の全てから遮断されて…。

「うそ…」
アンジェリークの頭の中が真っ白になった。
まるでどこかに思いっきり頭を打ちつけた様だ。
リュミエール様が…守護聖じゃなくなって…
聖地から…去る…?

「しっかりして!アンジェリーク!」
レイチェルの声がアンジェリークの目に光りを戻した。
「あ…私…どうしたら…」
唇が、いや、体中が震ていた。
立っているのもやっとという感じだったが、心が倒れるのを許さなかった。

「アンジェリーク…リュミエール様と特に仲が良かったって事、ワタシ知ってるよ。
ちゃんとリュミエール様に伝えたいコト、伝えとかなきゃ。
後悔しても戻れないんだよ、本当にっ!」
レイチェルがアンジェリークの肩を揺さぶる。
「リュミエール様…今日、元気なかったよ…?アナタは今、アナタに出来る事してあげてよ…」

アンジェリークは走り出した。

リュミエール様っ!



リュミエールは森の湖に来ていた。
今執務室や自室にいても、皆に気を使わせるだけ…

空には星が瞬いている。

『なぜ…お前なんだ?!クソッ!!』
『…交替は年齢順とか期間とかの問題じゃないって…わかってたけど…』

つい先刻聞いた仲間の声が頭に響く。

『うそでしょう?リュミエール様……いやぁぁああっ!』

女王陛下の取り乱し方…
それを見ても、この交替が何の予測もしていなかった事を暗示していた。
あまりにも突然で…残酷な運命。


ガサッ

草を踏む足音にリュミエールが振り返った視線の先には
セピアの髪の少女が立っていた。
駆けて来たらしい荒い息使い。
大粒の瞳が悲しそうに揺れた。

「ア…アンジェリークッ」
驚いたリュミエールは思わず駆け寄ろうとして…踏みとどまった。
私はアンジェリークに…

「リュミエール様…なんで?」

アンジェリークは震える声を必死に絞り出していた。

「なんでリュミエール様…いなくなっちゃうの?」

「アンジェリーク…」

「私…リュミエール様が大好きです。誰よりも…一番に…」

「え…?」

それはリュミエールが予想だにしていなかった言葉だった。
アンジェリークが…私を好き?

「ごめんなさいっリュミエール様に嫌われたくなくて、私、私、
おしとやかで可愛い女の子を演じてたんですっ!
本当の私はリュミエール様が思ってる様なコじゃなくて、
勝気で負けず嫌いで素直になれない可愛くないコなんですっ!
リュミエール様を…騙してたんです…」

アンジェリークは一気にまくし立てた。

「リュミエール様、好きです。
これからは本当の私を見せます。
だから嫌いになったままさよならなんてやだから、あの、その…
いや、さよならが嫌なの、
わ、私の事、嫌いなままでいて欲しくないっていうか…」

上手く言葉が見つからないらしい。
アンジェリークはしどろもどろでもう敬語も忘れてしまっていた。

リュミエールは暫く呆然とそんなアンジェリークを見ていたが突然、

「…プッ…クスクス…フフ…フフフ…ッ」

さも可笑しそうに笑い出した。
今度はアンジェリークが驚く番だった。

「リュミエールさまぁ…」
必死の告白と懺悔を笑われてしまったアンジェリークは立つ瀬なしといった感じだ。

「クスクス…いえ、すみません。違うのですよ、アンジェリーク」
にっこりと微笑むリュミエールがそこにいた。

「私は…あなたに嫌われていたのではなかったのですね…」
「き、嫌ってなんかっ!!」
「ありがとう、アンジェリーク…」

「私は、守護聖の任を降りる事になりました…」
リュミエールは夜空を見上げた。
美しい星々。
この世界に満ちていた水のサクリア。
それが自分の中にもあったのだ。
それに、この美しい少女と出会えた。
今はそれだけ…ただそれだけでいい…

アンジェリークは神妙にうなずく。

「リュミエール様は故郷にお戻りになるんですね?」
アンジェリークが確認する様に尋ねるとリュミエールは
「ええ。そのつもりです。私がいた頃とは大分違っているはずですが…」
と答えた。

アンジェリークの視線とリュミエールの視線が重なった。
そう、言いたかったのはこの言葉。
聞きたかったのはこの言葉。

「アンジェリーク…私と共に来て下さいますか?」

「はい…どこへなりとでも。リュミエール様と一緒なら…」

月明かりの下、寄り添う二人。
もう離さない。
二度と離れない。
大切なあなた。



「所でアンジェリーク。あなたは私を騙していたと言いましたね」
「はい…言いました…ごめんなさい」
「ふふふ♪あなたは知らないでしょうけれど、あなたが気付かなくても
私はあなたの事、ちゃんと見てましたよ。
木登りをするあなたも、小さな迷子の母親を夕暮れまで探してあげた事も、
レイチェルと元気良く喧嘩していた事も…
見なくとも人から伝わりますしね」
「え…っ…バレバレだったんですか…」
アンジェリークは真っ赤になった。
今まで必死に隠してきたのって一体…
「私はあなたの全てが好きなのです。愛しい人。
あなたを愛しています。だから、これからは自分を偽らずにいて下さい。
ありのままのあなたが、私は好きですよ」
リュミエールはアンジェリークの小指に優しくキスをした。



数年後。
聖地に噂が流れた。
とある水の惑星で、美しい吟遊詩人の夫婦がいると。
その夫婦は美しい青銀の髪をした男性と、柔らかいセピアの髪色をした女性で…
男性が胸を打つハープの演奏を、
女性が綺麗な声で、懐かしい故郷の唄を唄うらしいと。

聖地にいる守護聖達や新宇宙の女王となったレイチェルは
リュミエールとアンジェリークが幸せに暮らしている事を知った。
そして懐かしい友に祈りを捧げるのだった。

Fin

愛するゆかりんより、お誕生日のプレゼントとしていただきました創作です☆
もうっ、もうっ、もーーーーうっっっ!! やっぱり、ゆかりんは素敵っっ!!
・・・ほんと、大好きです。ゆかりんも、作品も♪ もらえて良かった・・・。
ゆかりんの「表現力」や「描写力」にベタ惚れのあやみぃです☆

浅巳ゆかり様のHPはこちらから→